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未来の給食センターは海にある!? 「SF思考」で厨房機器メーカーが動画制作 PR以外の効果とはSFプロトタイピングの事例を紹介(2/2 ページ)

» 2022年11月28日 07時30分 公開
[大橋博之ITmedia]
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出発点は従業員の企画案 5年先を想定 でもワクワク感が足りなかった

 完成度が高い未来の学校給食センターの動画ですが、実は社内提案制度で従業員が出した企画案「未来の給食センターをテーマにした動画の制作」が出発点でした。企画案が2022年3月に提出され、5月の本部長会議で制作が決まりました。

 6月に入ってから営業企画部と広報課、技術部で内容について打ち合わせを行い、「施設内で食材を生産する」「ドローンで配送する」という大枠のアイデアはこの段階で生まれました。

 「当初、5年先を想定して中西製作所の技術の完成形を見せたいという話でスタートしました。そのため未来の給食センターといっても施設内に設置する厨房機器は実現性の高い機械ばかりが並んでいました。リアルではありますが、それでは見る人には面白くありません。ワクワクできない映像は意味がないと考え、もっと未来の姿にしようと内容を大幅に変更することにしました」(中西氏)

SFプロトタイピング 取材に応じる中西氏

 ところが、社内だけではなかなか奇抜なアイデアが出てこず、時間ばかりがかかってしまったといいます。

 「特に技術者は現在の延長で考える傾向があります。社外からも型にはまらないアイデアを出してもらう方が良いと判断しました。そのため、映像製作会社を5社ほど検討し、最終的に1社に決めてブレストから参加してもらうよう依頼しました」(中西氏)

映像制作会社を交えてブレスト さまざまなアイデアが登場

 こうして、7月に映像製作会社のジェイツ・コンプレックス(千代田区)を交えて2時間程度のブレストを実施しました。この時、中西製作所の営業企画部からはさまざまな意見が出てきました。

 例えば「未来ではドライバーの需要供給は崩れている、道路の渋滞や整備状況を無視できるドローンで配送する」「学校給食センターでは調理などで一時的に多量の熱を扱うため、午前に出た熱を一時的に貯蔵して午後の洗浄や消毒に利用する」「調理作業における食中毒などの事故はヒューマンエラーが引き起こすもののため、人間の作業はなくなっている」といった意見です。

 こうしたブレストの内容を基に、後日ジェイツ・コンプレックスが映像シナリオを提案しました。その中に「給食センターを海上につくる」「タンク状の機器の中での切裁作業や加熱調理をする」「ダクトで食缶に給食を自動盛付する」などのプランが出てきました。

 「ジェイツ・コンプレックスに未来感を出したいと話したところ、SF的なイメージを描いてくれて、それが良いとなりました。正直、そこまで未来的になることは想定していませんでしたが、この方が良いと思いました」(中西氏)

 また動画の構成も調整しました。当初、厨房メーカー目線で、一日の始まりから終わりまでの流れで構成していましたが、それよりも子どもたち目線とし、食べ終わってから給食ができあがるまでのサイクルの方がイメージしやすいのではないか? という外部の意見があったからです。そのような構成は給食業界の発想では異例のこと。目から鱗だったといいます。

 これらのアイデアを踏まえて動画制作に進みました。最初はコストを考えてCGイラストで未来像を見せる予定でしたが、フルCG動画で制作することになりました。

 「CGイラストで細かい部分を描いて見せるのではなく、単純で良いので見ていて面白い、ワクワクする方が良いと考えました」(中西氏)

「自分たちの未来を示したという意味で、とても意義のある動画」

 ジェイツ・コンプレックス交えてブレストをしたことで、動画の制作は一気に加速しました。一般的に、動画を制作するときは社内で方向性を決め、オリエンテーションで制作会社に意図を説明してから制作を進める場合が多いです。しかし、中西製作所では普段からコンサルティング会社やアドバイザーを呼んでブレストする機会が多く、今回もアイデア出しの段階から映像製作会社を交えてブレストしたことで、社内だけでは生まれない自由な発想につながりました。

 動画を見た技術部の反応も好評でした。挙がった感想としては「人が登場していないことが良かった。未来で人が頑張って作業している姿はイメージできない」「人がいないのは寂しい感じも受けるが、きっとこの省人化が未来の理想になる気がする」「今でも厨房業界で働く人口は減少しており、従来の給食を提供できない状況に陥っている。厨房業界の3K(きつい、汚い、危険)をなくすことが未来の理想」「戦後は食糧難による栄養失調が起きていたが、今はぜいたくな食事を取れる故に栄養過多による病気が増えた。将来は栄養バランスも人工的に作られたものになっている」といったものです。

 「動画は弊社が未来に向かって走っているというPRのためです。しかし未来の姿を考えることで、いま何が必要で、何が課題なのかも考えられるようになりました。その意味では一石二鳥どころか四鳥くらいの効果があります」(中西氏)

今後も未来を考え続けたいと言います。そこで最後に未来を考える重要性を伺いました。

 「弊社のような機械メーカーはニッチな産業で、人手がどんどん減っています。そのため自動化や省人化は未来に向かうための一歩だと思っています。今回の動画は、ただ未来の姿を描いたのではなく、営業部や技術部に対して『これからはこの未来を実現できるように取り組んでいかなければいけない』と話す道しるべになります。自分たちの未来を示したという意味で、とても意義のある動画になったと思います」(中西氏)


 中西製作所の例で見てきたように、SFプロトタイピングはSFプロトタイパーや専門家が取りまとめなくとも、自分たちで取り組めます。そして、SFプロトタイピングの最後に作品を作って終わりではなく、中西製作所のように、完成した「未来の姿」を目指すべきものとして、今後に役立てるのが正しいSFプロトタイピングだといえます。

 SFプロトタイピングに興味がある、取り組んでみたい、もしくは取り組んでいるという方がいらっしゃいましたら、ITmedia NEWS編集部までご連絡ください。この連載で紹介させていただくかもしれません。

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