このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
中国の浙江大学、上海交通大学、Microsoft Research Asiaに所属する研究者らが発表した論文「DeHiREC: Detecting Hidden Voice Recorders via ADC Electromagnetic Radiation」は、オフラインの隠しボイスレコーダーを検出するシステムを提案した研究報告だ。ボイスレコーダーから放出される電磁波を記録装置で捉え解析する方法で、ボイスレコーダーの存在を判別する。
不正な音声録音は、企業秘密や個人のプライバシーを脅かす脅威の一つとなっている。技術進歩によりボイスレコーダーは小型化され、発見が困難になっている。中には、普通のペンやUSBメモリに偽装したものもある。
スマートフォンやノートPCが禁止されている機密情報施設のような安全な会議室では、隠しボイスレコーダーの存在を検知することが機密会議やプライベートな会話を保護するために不可欠となる。
しかし、音声録音は基本的に受動的なプロセスであるため、隠れたボイスレコーダーを検出することは容易ではない。レーダーや暗視カメラなどのアクティブセンサーとは異なり、マイクは能動的に周囲に信号を発するのではなく、音によって引き起こされる振動を受動的に測定し、それを電気信号に変換してサンプリングし保存するだけなのである。
またボイスレコーダーの多くはオフラインで動作するため、無線接続を開始することはない。電池駆動であり、電力線に痕跡も残さない。以上のことから、赤外線、無線通信、電力の痕跡などによる既存の隠しカメラの検出方法は、隠しボイスレコーダーに適用できないことが分かる。
今回はこの課題に対し、周囲にある隠しボイスレコーダーを検出するシステム「DeHiREC」を提案する。研究者らは、音声録音は受動的であるものの、全ての電子機器は電流の変化により、必然的に電磁波を周囲に放出することに着目。ボイスレコーダー特有の電磁波の痕跡を空中で受信して識別することで隠れたボイスレコーダーの発見を試みる。
具体的には、記録装置で電磁波信号を取得してパターンを解析することで、電磁波の発生源であるボイスレコーダー内に組み込まれているMSoCs(Mixed signal system-on-chips)のアナログ・デジタル変換器(ADC)モジュールを突き止める。
だが、このような電磁波の信号は非常にノイズが多く弱いため、正確に検出するのは困難である。この課題を解決するため、まず電磁波信号を積極的に刺激する「EMR Catalyzing」というシステムを設計し、次に検知した電磁波の信号対雑音比(SNR)を向上させる「Adaptive-folding」という信号処理アルゴリズムを提案した。
これらによって、検出された電磁波の変動がEMR Catalyzingからの能動的な刺激に対応することで、隠しボイスレコーダーの判別が可能となる。
実験では、21台の干渉機器によるさまざまなノイズ下において、13台の市販ボイスレコーダーを検出できるかを評価した。その結果、0.2mの距離から13台全てのボイスレコーダーを検出でき、総合成功率92.17%、再現率86.14%を達成した。実験室レベルの装置で最大0.5mまで検出距離を伸ばすことができた。
Source and Image Credits: R. Zhou, et al., “DeHiREC: Detecting Hidden Voice Recorders via ADC Electromagnetic Radiation,” in 2023 2023 IEEE Symposium on Security and Privacy (SP) (SP), San Francisco, CA, US, 2023 pp. 658-673. doi: 10.1109/SP46215.2023.00038
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