1月7日には、もう1つ重要なシグナルが発せられた。
中国銀行保険監督管理委員会主席と中国人民銀党委書記を兼務する中国の金融監督トップ、郭樹清氏が中国プラットフォーマー14社の金融業務について「基本的に是正が完了した」との見解を示した。具体的な企業名は出さなかったものの、アントのガバナンス刷新と同日に報道されたことから、投資家はIT企業規制の緩和を期待し、テンセントやアリババなど中国最大級のIT企業株の一部は、約半年ぶりの高値をつけた。
さらに1月16日、配車サービスのDiDiが「国家サイバーセキュリティの審査を受け改善を進めた結果、(1年半ぶりに)新規ユーザーの登録が認められた」と発表した。
当局に上場を止められ、IT規制の象徴的存在だったアントとDiDiの状況が動いたことで、市場はIT企業への締め付けが緩むと期待している。ただしそれは、「当局の管理の下」という前提になる。ジャック・マー氏は姿を消す20年10月以前もたびたび国の規制や非効率を批判していたが、当時は問題にならなかった。
マー氏のような直言型のIT企業家は、当面中国には現れないだろう。市場は政府に姿勢の軟化を歓迎しつつも、政府に手綱を握られたIT企業がかつてのようにイノベーションを起こし続けられるのかを懸念している。
早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37。
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