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CloudflareはAWSのようなパブリッククラウドと競合する企業になるのか? COOに直接聞いた

» 2023年02月10日 10時24分 公開
[新野淳一ITmedia]

この記事は新野淳一氏のブログ「Publickey」に掲載された「CloudflareはAWSのようなパブリッククラウドと競合する企業になるのか? 同社COOに直接聞いた」(2023年2月10日掲載)を、ITmedia NEWS編集部で一部編集し、転載したものです。

 米Cloudflareは大手CDNベンダーとして知られていますが、現在の同社はCDNだけではなくゼロトラストネットワークなどのセキュリティ分野や、エッジデータセンターでJavaScriptを実行する「Cloudflare Workers」、オブジェクトストレージとして「Amazon S3」に対抗する「Cloudflare R2」、分散SQLiteによるデータベースサービス「Cloudflare D1」など、幅広いネットワークサービスを提供する企業となっています。

 そのCloudflareの共同創設者兼社長兼最高執行責任者(COO)であるMichelle Zatlyn(ミシェル・ザトリン)氏が来日し、記者会見を行いました。

photo 写真左から、クラウドフレア・ジャパンの佐藤知成執行役員社長、CloudflareのMichelle Zatlyn(ミシェル・ザトリン)COO、CloudflareのJonathon Dixon(ジョナサン・ディクソン) 氏(アジア太平洋・日本・中国担当 副社長・マネージングディレクター)

インターネット全体のトラフィックの20%弱を処理

 Cloudflareは2010年設立、19年に株式公開を行い、現在では3100名以上の従業員が世界中の20カ所のオフィスで働いているとザトリンCOO。

 同社のグローバルなネットワークは100カ国以上、275都市以上を接続し、日本国内にも10箇所のPoP(Point of Presence:接続点)があり、1万1000以上のISPやクラウドプロバイダなどと相互接続しているとのこと。

 このネットワークはインターネット全体のトラフィックの20%弱を処理し、1日あたり1260億件のサイバー脅威をブロックしているとしています。

 そして前述の通り、CDNをはじめとするネットワークサービスだけでなく、企業向けのセキュリティ対策やプライバシー保護、アプリケーションプラットフォーム分野へと提供するサービスを拡大しています。

日本でもエンタープライズ向けビジネスを強化

 クラウドフレア・ジャパンの佐藤知成執行役員社長は、日本においてもCDNベンダーから総合インターネットプロバイダへとさまざまなサービス展開をはじめており、今年度はエンタープライズ向けのビジネスを強化すると説明。

 ネットワークサービスの新規契約だけでなく、Cloudflare R2の新規契約、ゼロトラストネットワークのニーズ拡大、パートナーの拡大などを見込んでいるとしました。

 またクラウドフレア・ジャパンの人員も現在の10名から50名へと大幅増員を見込んでいるとのことです。

CloudflareはAWSと競合するつもりなのか?

 このように同社はグローバルにおいても日本国内においてもエンタープライズ向けのソリューションとビジネス拡大を表明しています。

 そしてエンタープライズ市場へ積極的に展開するとなれば、当然ながら現在のエンタープライズ市場で急成長を遂げているAWSやMicrosoft Azureといったパブリッククラウドと競合することになります。

 果たしてCloudflareは今後さらにAWSのようなパブリッククラウドとエンタープライズ市場において競合を強めるつもりなのでしょうか?

 記者会見の場で、ザトリンCOOにそのような質問を直接ぶつけてみました。

 しかし、ザトリンCOOはやや遠回しな説明の後で「5年後にはまたその様子について皆様にご報告できる日が来るのではないかと思います」と、少なくとも現時点では直接AWSのようなパブリッククラウドと競合を強める計画がないことを明かしました。

 おそらく、Cloudflareは今後も同社のグローバルなネットワークの強みを活かして、AWSや他のパブリッククラウドの、ある特定の機能に対して競合するサービスを開発し提供していくつもりではあると思われます。

 しかし少なくとも現在のパブリッククラウドからエンタープライズ市場の多くを奪いに行くような大きな戦略は持っていないのではないかと考えられます。

 以下が、私の質問とザトリンCOOからの回答です(ザトリンCOOの回答は記者会見場の通訳による日本語訳を整理したもの)。

Cloudflare ミシェル・ザトリンCOOへの質問

 ――Publickeyの新野といいます。ザトリンさんに会社の中長期的なビジョンをお伺いします。御社は最近、R2やD1といった、AWSのようなパブリッククラウドの機能と競合するようなサービスを新しく出しています。

 御社はこれから、さらにパブリッククラウドと競合していくような会社になっていくのか、それともインターネットプロバイダとして、パブリッククラウドと補完的な関係の企業になっていこうとしているのか。ビジョンを教えてください。

ザトリンCOO:私どもは本当にグローバルなネットワークを構築し、全世界110カ国275都市にデータセンターがあります。世界のどこを見回しても、これほどの規模でグローバルネットワークを構築できている会社というのはそれほど数多くなく、誇りに思っています。

 そして皆様がそのネットワークを使われるときには、Google CloudやMicrosoft Azureやオンプレミスのデータセンターがあり、全てを連携していくことができるわけです。

 そして日本の起業家の方が起業してクラウドサービスを使う場合、どこかのリージョンを選ばなければ鳴りません。例えば東京リージョンを選んで、そして東京リージョンでコンテンツを展開していくと。

 そしたらそれが急に北米ですごく人気が出てしまった、というようなことが起こります。

 その時お客様はCloudflareにいらっしゃるわけです。そして我々は非常にスマートな様々な技術を使って、より迅速にお客様のニーズを満たしていくことができる。

 そしてお客様のお役に立つだけでなく、従業員の方々が世界中いろいろなところに出張して仕事をしなければいけないというときにも、どこでも非常に迅速に、安全な、より信頼性が高いネットワーク環境を提供していくことができるわけです。

 さて、ここで質問として上がってくるのは、もしこの起業家がどのリージョンも選ばなくて済むとしたらどうか、ということなんです。

 ビジネスを最初に起業しようというとき、どこで人気が出るかは想定できませんよね。東京で人気が出るのか、北米で人気が出るのかは分からない。

 そこで将来の姿としては、そのような場合、ネットワーク上でコードを走らせるだけで済む、というような選択肢になっていくわけです。これが私たちがR2とD1をリリースすることにつながっているのです。

 これらがどのようなユースケースが発掘されて広まっていくかはわかりませんけれども、5年後にはまたその様子について皆様にご報告できる日が来るのではないかと思います。

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