ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

ぺんてるの新しい“シャー芯”、ぬるっとした書き味を生み出した非常識なアイデアとは?分かりにくいけれど面白いモノたち(2/6 ページ)

» 2023年02月21日 08時00分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 しかも、シャー芯の製法は、各メーカーそれぞれが独自に開発して特許を取るので、他のメーカーの作り方は特許で公開されている部分しか分からず、また、特許で守られている期間は、その製法を使うわけに行かないこともあって、とても秘密の多い状態なのだという。各メーカーが手探りと手作業で、しのぎを削っているのだ。

ぺんてるのシャー芯製造過程。他のメーカーは違うかもしれないくらい、秘密が多いのがシャー芯製造の面白さ

 今回、ぺんてるが「Pentel Ain」で実現したのが、滑らかな書き味。実際に、従来のぺんてるの芯「アイン替芯 シュタイン」と比べてみると、明らかに、ぬるっとした鉛筆に近い書き味が得られる。

 同じ時期にぺんてるから発売された、自動芯出し機構を備えたシャープペンシル「オレンズAT」と組み合わせると、ノックする必要がなく書けるせいか、シャープペンシルにありがちのカリカリした感触や、紙に引っ掛かる感じもなく、これなら、普段使いにしたいと感じる書き心地なのだ。

「シャープペンシルの芯の開発は、時間がかかります。今回の『Pentel Ain』にしても、いつ開発が始まったかと聞かれると、前の『アイン替芯シュタイン』の発売直後からということになりますし、『Pentel Ain』を発売した今も、改良に取り掛かっています」と、ぺんてる研究開発本部の坂田祖(さかたはじめ)氏。

 ずっと、より折れにくく、より濃く、汚れにくく、消しやすく、なめらかに、といった要素について、向上を図るのが芯の開発なのだという。ここのところは、各社とも折れにくさに開発の焦点があたっていたが、それはある程度達成された上に、シャープペンシルの機能の向上もあって、実用上は気にしないでも済むレベルに達している。

シャープペンシルの芯が作られている、ぺんてる吉川工場
シャー芯の顕微鏡写真。このように、合成樹脂を熱処理して得られる炭化物(樹脂炭化物)をつなぎにして黒鉛が折り重なった構造をしている。Pentel Ainでは、この炭化物がツルツルになったようなイメージ。それが、今回の「滑らかさ」の秘密だ

 実のところ、シャー芯の性能、例えば濃さと折れにくさは、相反関係にある。濃くするためには着色剤である黒鉛を増やす必要があるが、そうすると折れやすくなるのだ。また、芯の消耗量を増やして濃さを実現しようとすると、芯の減りは早くなり、筆記時に手が汚れやすくなったりもする。逆に、芯を折れにくくしようとすると硬くなり、筆記線は薄くなる。

 つまり、実用的な芯を作るためには、総合的なバランスが重要になる。ぺんてるでは、どれかの性能に特化するよりも、全体にバランスよく性能を発揮できるように調整する方向で、芯を作っているという。

 その中で、折れやすさや濃さなどのシャー芯の基本品質を犠牲にすることなく、滑らかさを実現したのが、今回の新製品というわけだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.