「滑らかさについては、これまで、芯を作る後半の工程、熱処理まで終えた芯に『浸油』という工程で、芯を油に浸すことで実現していました。芯の構成物をオイルコーティングするような形ですね」と坂田氏。
ところが、今回、若いスタッフから出たアイデアは、それとは全く違ったのだという。
「芯の材料を配合する段階で、オイルを混ぜてしまうという提案があったんです。ただ、ずっと芯を作ってきた僕らは、滑らかさは最後の浸油工程で出すものだと思い込んでいました。また、黒鉛は元々、かなりツルツルした粉なのですが、その段階でさらに滑らかさを高める方法は、色々考えてはいたんです。例えば、黒鉛の粒子1つ1つをフッ素コーティングするとか考えたのですが、それだと膨大なコストがかかっちゃうので諦めてました」と坂田氏。
材料を混合して成型した後、芯は熱処理するため、オイルを混ぜていても意味はないのではないかと考えていたのだそうだ。
「ただ、何でもやってみるというのが、わが社の昔からのスタイルでもあるし、特殊オイルが良さそうだというのはあったので、やってみたら、上手くいってしまったんです。面白いのは、この特殊オイル以外では、先に混ぜても上手くいかないんです」
ぺんてるでは、ハイポリマー芯の開発も、たまたまストーブの上で焼いていたおにぎりが真っ黒に焦げたのを見て、とにかく色んなものを焼いて試した揚げ句にチューインガムを焼いたところから、プラスチックを黒鉛に混ぜることを思いついたという歴史がある。今回の「Pentel Ain」もそれに似た、思いつきと膨大な実験から生まれたのが、なんとも面白い。
滑らかな書き味というのが、実際の筆記において「気持ち良い」以外に何か良いことはあるのか? というのは製品の発表を聞いた時にまず思ったことなのだけど、今回、実際に書き比べて色々発見があった。
まず、滑らかだと、筆圧が弱くて済むため、書き疲れしないのだ。鉛筆やシャープペンシルは、芯を紙に擦り付けて書くため、ボールペンに比べても、筆圧が強くなりがちなのだ。それが、筆記時の滑りが良いと、自然に軽く書くようになる(私の場合なので、個人差はあると思う)。
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