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ぺんてるの新しい“シャー芯”、ぬるっとした書き味を生み出した非常識なアイデアとは?分かりにくいけれど面白いモノたち(4/6 ページ)

» 2023年02月21日 08時00分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 加えて、自動芯出し機構を備えた「オレンズAT」で書くと、最初のワンノックだけでずーっと書けるせいか、ボールペンで書いているのと、同じような感覚になれた。それこそアイデア出しとか、ちょっとした計算とか、校正の下書きとか、さらには取材時のメモまでシャープペンシルで書くようになってしまった。油性ボールペンが、低粘度油性インクの三菱鉛筆「ジェットストリーム」で使い方まで一変したように、筆記具にとって滑らかさというのは、自分で思っていた以上に大きな要素らしい。

 シャープペンシルとシャー芯は、同じメーカーのものを使うことを、どのメーカーも推奨しているが、これは何も自社の製品への囲い込みというだけの理由ではないのだ。これは凄く当たり前なのにほとんど意識していなかった。

ぺんてる「オレンズAT」(2200円)と「Pentel Ain」。自動芯出し機構を持つシャープペンシルと、滑らかに書ける芯のマッチングは、シャープペンシルのイメージをかなり変える衝撃があった

 話を聞けば聞くほど、シャー芯というのは、物すごく作るのが面倒だし、0.3mmとかの世界で、しかもメーカーごとに作り方も黒鉛以外の材料も微妙に違っているのだ。しかも、熱処理という過程が必要なので、同じ0.5と表示された芯であっても、その太さは微妙に違っている場合もある。そして、各社のシャープペンシルは、当然、自社の芯でテストされ、製造される。

 そこに、人間の指先という、自分で思っているよりかなり繊細で過敏なセンサーが付いている場所で使うのだから、別のメーカーの芯では些細な違和感を覚える可能性も高い。この差は、万年筆のインクと同じ会社の万年筆の相性よりも影響は大きいのではないかという気がする。

「Pentel Ain」では、試作時から何度も確認を重ねて、狙い通りの出来栄えになっているか、芯を何本も書いてチェックしてきた。これを0.5のHBや0.3のBなど、品種ごとに実施するわけだ。写真は、今回、取材に応じて頂いた坂田祖(さかたはじめ)氏の作業風景

 例えば、同じぺんてるの、同じオレンズでも、「オレンズネロ」は芯を保持する「チャック」と呼ばれる部品が、金属製だが、「オレンズAT」は樹脂製だ。それだけでも、芯にかかる力が変わってくる。

 「今回、『オレンズAT』の開発と、私たち『Pentel Ain』の開発は、隣同士でやってたんです。それで、言語化されていない共通認識みたいなものは自然と出来てきたという部分はあると思います。新しく設計したから、ちょっと試させて、みたいなことをしょっちゅうやってました」と坂田氏が語るように、シャープペンシルと芯は、相互関係にあって、規格品でサイズは合うから使えるというだけでは済まされない専用性があるのだ。

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