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SF小説を使った議論は“脳を刺激”した――LIXILが「SFプロトタイピング」で見つけたアイデアと希望LIXIL若手社員×SF作家・人間六度さん/柞刈湯葉さん(3/3 ページ)

» 2023年03月13日 07時30分 公開
[大橋博之ITmedia]
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SF小説の世界を実現する――「利益」と「信念」を担う組織の両立が重要

大橋  SFプロトタイピングで最も大切なところは「SF小説が面白かったです」ではなく、SF小説が描いた未来からバックキャスティングして、SF小説の世界を作るために自分たちは何をすべきなのかを考えることだと思っています。SF小説の世界を作る上での課題をどうお考えですか?

平田 持続可能でないプロセスでは、われわれ人類の生活は成り立たなくなることが問題視されており、このような状況でどのように対応するかが重要ですよね。これを乗り越えるためには2つのことが必要だと考えています。1つが技術革新。もう1つが既存ルールの破壊です。

 今回のSF小説に登場した「最高の計算能力」「土壌コンピュータ」という技術を例にすると、これは技術革新だと思います。この素晴らしい新技術を実際に活用するためには、いろいろなことを考えないといけません。土壌コンピュータを作って家を建てることになったとき、いまの建築基準法のままでは建たないし、宅地建物取引業法のままだと賃貸物件として貸した後に責任が持てない。ならば改定する必要がありますが、ときには改定というよりもゼロからの構築に近いかもしれません。そうなったときは既存ルールを破壊し、再構築する必要があります。その際にメーカーとして何が求められるのかなど、幅広い視点を持った発想が大切だと感じました。

大橋 個人としてはいかがですか?

平田 僕はエンジニアではないので、直接新たな技術を生み出すことはできません。でも、プロダクトマネジャーとしてお客さまの抱える問題や課題に接する立場にいるため、その課題を解決できる技術をつなげて事業化し、新たな商品を提案・普及させることはできます。すぐ目の前にある問題だけでなく、長期的に見て進めていけるよう、一歩ずつ前進できる形で社会に貢献していきたいと考えています。

設樂 SF小説の世界を実現するため、最初に必要なことは何かと考えたとき、おそらく一般的な組織の在り方を一から見直すことなのではないかと思いました。一般的な企業は既存の事業や利益が出ている事業を最大化しようと注力しがちです。

 しかしSF小説の世界を実現するためには、既存の事業を最大化して利益を出していく組織と、新規領域に向かって信念を持ち続けチャレンジできる組織の両立が重要だと思っています。つまり新しい世界観に共感でき、信念を持った人を集めた組織作りと、そこに資金を投入し続けられる組織作りの両立が成功できたとき、ようやくSF小説の世界を作るスタートラインに立てるのだと思います。

大橋 企業がイノベーションを生み出せない悩みと同じですね。

設樂 チャレンジをしない/できない組織の成長は止まってしまいます。利益を最大化する組織とチャレンジする組織の2つをうまくミックスできた企業が今後勝ち残っていくのではないでしょうか。

藤原 日々、仕事をしていると、会社のなかの人と話をしているよりも、社外の人と話をしている方が新しい発想が生まれると感じることが多くあります。今回もそうでした。自分がいる領域と離れたところと接点を持つことの大事さを改めて感じました。

お話の中に出て来た、家が自分で育つといった発想を、普段の仕事のなかで考えることがありません。でも、そこが大事だというのは一番の気付きでした。

photo LIXILの設樂さん(写真=山本誠)

ぶっ飛んだアイデア求む 先の未来を考えるコンテスト実施

大橋 イノベーションプロジェクトの未来共創計画では、SF小説を基にしたアイデアコンテスト「FUTURE LIFE CREATIVE AWARD」を実施中です。どのような作品を期待していますか?

平田 普通のアイデアコンテストの場合、既存領域の派生というか、すぐ近い未来に実現できそうなものが出てくるのが一般的です。今回はそうではなく、もっと先の未来の可能性を感じられるものに出会えるとうれしいです。

設樂 事業を急成長させてくれるようなぶっ飛んだアイデアが来て欲しいと思っています。突拍子もないアイデアで、広い視点の面白いアイデアをたくさんいただければと思っています。

藤原 普段、私たちが触れることのないキーワードがあるといいなと思っています。世の中には「SDGs」があふれています。そこから外れてくれる作品に期待しています。

大橋 どうすればぶっ飛んだアイデアを出すことができるでしょうか?

人間 「環境」という言葉を使うけれど、僕は人間が環境だ、みたいなことを常に考えています。プロダクト視点に立つと人間の方が環境になる。人間の形が変わっていくにつれて、人間という環境に適応するプロダクトみたいな。逆算的な発想をしたいと常に思っています。

柞刈 家は誰もが住む場所なので、自分が住んでいる家をどんな感じにしたいとか、自分の手に触れるアイデアを広げて欲しいと思います。

photophoto (写真=山本誠)

SFプロトタイピングは“希望”を作る 企業が活用するメリット

大橋 最後に、SFプロトタイピングを活用したいと考えている企業へのアドバイスをお願いします。

平田 新規事業をやりたいとか、何をやればいいのか分からないけれど新しいことをやりたいという企業にSFプロトタイピングは適していると思います。SFプロトタイピングを活用することで、進むべき方向性を言語化できると思います。メーカーは原材料を加工して製品というアウトプットを生みますが、SFプロトタイピングは現在の社会が抱える不安や課題感を原材料にして、未来への希望や期待をアウトプットしてくれます。新しいことを始める際にはこの希望や期待が不可欠なので、1つの軸をつくり、志をそろえるために活用するためにも有効だと思いました。

設樂 企業はB2BとB2Cに大きく分けられますが、どちらにしてもエンタメ要素を含んだ考え方を取りいれないといけない時代になっていると感じます。特にお客さまが企業のB2Bの会社こそ、より柔軟な顧客志向の考え方が得られるSFプロトタイピングを導入するのは効果的なのではないかと考えます。

 SFプロトタイピングを取り入れることで、いままでなかった新しいプロダクトやビジネスのアイデアが生まれるきっかけになるのではないでしょうか。

藤原 普段の議論を飛ばすきっかけを学べることは、とても役立つと思います。SFを知らない人には取っ付き難いかもしれませんが、だからこそ、考える機会になる。普段とは違う脳を使う感触はあります。異業種交流会に参加される方もいると思いますが、それ以上に発想が飛ぶ機会になるんじゃないかと私は思いました。

大橋 ありがとうございました。


 LIXILではSFプロトタイピングを活用したコンテストで生活者との接点を作ろうとしています。そして、それだけでなく若手社員を巻き込み、SFプロトタイピングを基にディスカッションをするなど最大限に活用しています。SFプロトタイピングから学べることは多いという率直な意見は、SFプロトタイピングを活用したいと考える企業にとって参考になるのではないでしょうか。

 SFプロトタイピングに興味がある、取り組んでみたい、もしくは取り組んでいるという方がいらっしゃいましたら、ITmedia NEWS編集部までご連絡ください。SFプロトタイパーの僕がSFプロトタイピングを提供すると共に、この連載で紹介させていただきたいと考えています。

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