世界で初めて将棋AIで名人に勝った。次は自動運転EVで米Tesla社を超える――こんな野望を語るのは、国産スタートアップTURING(チューリング)の山本一成CEOだ。山本さんは、世界初の「名人超え将棋AI」開発者としても知られる。いま“打倒Tesla”に向けて、培った経験と戦略眼で開発を加速しているさなかだ。
すでに海外で数百社の自動運転ベンチャーやEVスタートアップが競争する市場を前に「自動車業界は転換点にあり、このビックチャンスに乗るしかないと思った」と振り返る山本さん。
「ライバルがいるから勝てないわけではありません。例えばトヨタはフォードが開いた自動車市場に参入したし、Tesla社は先輩たちを追い抜きました」「私たちはTesla社を超える完成車メーカーを目指します」(山本さん)
将棋から自動運転まで成長するAIに間近で携わり、自動車という巨大産業に飛び込むなど、テクノロジーの先端で新しい一手を繰り出し続ける山本さん。山本さんがAIの進化やビジネスの将来展望について語ったのが、ITmedia主催イベントの基調講演だ。この記事では同イベント「Digital Business Days SaaS EXPO 2023Winter」の講演から、山本さんたちTURINGがTesla社をいかに超えるかという考え方を探っていく。
山本さんの名を世にとどろかせたのが、独自開発した将棋AIソフト「Ponanza」(ポナンザ)だ。2013年、プロ棋士と将棋ソフトが対決する「第2回将棋電王戦」で、Ponanzaは佐藤慎一四段(当時)に勝利。将棋AIが公式戦でプロ棋士に勝つのは世界初だった。その後も佐藤天彦名人(当時)との対局でPonanzaが白星をあげるなど、多数の偉業を成し遂げてきた。
そもそも、それまで将棋や囲碁のソフトが実戦レベルの性能に至るのは難しかった。局面をコンピュータで予測することは可能だが、数百手ある展開を何度も計算するのは時間がかかるため現実的ではない。さらに人間の発想が生む「良さそうな手」「味がある手」は計算で導き出せず、人間がプログラムで再現を試みるも実戦では使い物にならなかった。
そんな状況でPonanzaを強くしたのが機械学習だ。味がある手をどう表現すればいいか分からない状態が続く中で、山本さんは人間が作戦や手をプログラミングすることを諦めて機械自身に学習してもらう方法を採用。最低限のルールなどを記述した上で、次の手の探索やPonanza同士の対局を重ねて強化していった。
「当時、機械学習は主流ではなく、人が教え込んでいましたが『そんなの無理』だと思っていました。私はプログラミングよりも設計や作戦を考えるほうが得意で、機械学習を使ったのも作戦のうちです。将棋AIが人間を上回る、ひいてはAIが人間を超える場面に興味があり、迷いながらも進んだことで見えるものがありました」(山本さん)
こうして、山本さんが「将棋AIにとって最高のチャレンジ」と振り返る対名人戦での勝利を飾ったPonanza。この先に進むとしたらあらゆる局面や展開を読む完全解析だが、いまの技術ではほぼ不可能という。そのため山本さんはPonanza開発から身を引く決断をした。「満足だった」と振り返る。
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