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将棋AI作者が歩む「Tesla打倒」の道 自動運転EV開発へ “名人超え”で得た反省とは(2/2 ページ)

» 2023年03月17日 08時00分 公開
[荒岡瑛一郎ITmedia]
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「天才がいる」という評価にとどまる Ponanza開発の反省

 Ponanzaを開発するかたわら、山本さんは将棋ソフトの開発などを手掛けるHEROZ(港区)のエンジニアや技術顧問としても活躍し、同社を上場に導いた。こうした経験から、TURING起業の道を進むことになる。

 実は、この選択にPonanza開発時の反省点が生きている。山本さんの個人技として作った結果「天才がいる」という評価にとどまってしまったという。一方で、囲碁のプロ棋士を破った囲碁AI「AlphaGo」は、英DeepMindというチームがプロ棋士に勝ち、ひいては同社を傘下に収めたGoogleに代表される世界の情報産業がAIの金字塔を打ち立てたというストーリーになった。

 「当時は一生懸命でしたが、できればチームと出資を集めて『日本の情報産業が将棋という難しい領域の名人をAIで倒す』というストーリーにすべきでした。そうすれば情報産業のレベルを世界にアピールできるし、市場のパイも増えます」(山本さん)

 チームや組織で大きな産業に挑む。その視点で日本を見た時、目に止まったのが自動車産業だった。自動運転に取り組む国内スタートアップは数社程度。そこにチャンスがあるとにらんだ山本さんは、自動運転EVの実現に向けてアクセルを踏んだ。

photo 山本さん

TURINGが始動 “理想は“自動車版ユニクロ”

 そして21年、TURINGのエンジンが始動した。自動運転AIから車体まで自社開発する完成車メーカーを目指して創業した同社。ビジョンに「We Overtake Tesla」(Tesla社を超える)を掲げる。22年に10億円の資金調達を実施し、現在はAIやソフトウェアのエンジニア、自動車メーカー出身のスタッフなど約20人で開発を進めている。

 初めて販売までこぎつけたのは23年1月。「レクサス RX450h」の車両をベースに、自社開発したAI自動運転システムとオリジナルエンブレムを搭載した車「THE FIRST TURING CAR」を1台限定で販売した。

photo 販売したTHE FIRST TURING CAR

 着実に前進するTURING。山本さんは自動運転について「技術的にいまこの瞬間には難しいかもしれませんが、30年ごろには実現しているかもしれない」とし、そこから普及に向かうと見込む。そこで山本さんが思い描くのは“自動車版ユニクロ”だという。

 「自動車は車好きが多いので『味がある乗り心地』といった表現で伝わっていましたが、車に興味がない人には分からない。ユニクロの服は、ファッションに興味がない人も楽しめるものです。手軽で安心感があって車に興味がなくても楽しめる移動体を作ることを目指します」(山本さん)

photo TURINGのスケジュール(同社Webサイトより)

Tesla社に勝つ秘訣は?

 多くの人が楽しめる自動運転EVに向けて開発を進めるTURING。そして山本さんはTesla社の先を見すえている。Tesla社を超えるために必要なのが「人とお金と情報を集め続けること」だという。人を集めることは情報を集めることに等しい。モノづくり出身の人とソフトウェアに詳しい人をつないでチームを作ることが大切だと山本さんは話す。

 また自動車産業は関係者が多いためタコツボ化しやすい。そうならない組織にすることで、開発時の各層が抱える課題やアイデアを共有し、開発にフィードバックできる。「一番良いものを作るならアウトソーシングではなく、内部に知見をためたほうが良い。そうした人材やチームを作ることが、Tesla社に勝つ秘訣(ひけつ)です」(山本さん)

 山本さんが語った打倒Tesla社の鍵は、TURING以外の企業も参考にできるものだ。TURINGをはじめ、日本の企業や技術が“世界の巨人”を追い抜く日を心待ちにしたい。

「時代をつかみ、大きなビジネスをしましょうよ。AIの進化やコンピュータの演算能力が向上したことで、理想を実現できるようになったんですから」(山本さん)

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