大橋 SFプロトタイピングに取り組もうと考えたのは、どうしてなのですか?
黒木 長期ビジョンで掲げる目標を達成するには「未来はどうなり、だから今、何をしなければいけないんだ」とさかのぼって考えることも必要だと思ったからです。
通常、未来予想はコンサルティング会社に依頼するものです。しかし、コンサル会社の予想は2〜3年後だと当たることは多いのですが、突然新しいテクノロジーが出て来て思わぬ方向に発展することもあり、長期スパンだと得てして外してしまうものです。
それならば、むしろSFでイマジネーションを膨らませて考える方が当たるのではないか。当たらないにしろ、コンサル会社にそれなりの金額を支払うより、はるかに効果的だと考えました。
大橋 未来予想は必要ですが、社会的な状況や技術革新も関係してくるため、未来がどうなるかは誰にも分かりません。大手コンサル会社では未来予想をされていますが、当たるものではないように思います。そもそも、未来は自分たちで作っていくものです。SFプロトタイピングは「こんな未来を創りたい」と妄想し、「そのためには今、何をすべきか」をバックキャスティングで考える手法です。
黒木 イーロン・マスクやジェフ・ベゾス、マーク・ザッカーバーグなどはSFを読んで育ってきたと思います。そんな人たちが世界を動かしている。そういう世界に対応するためには、われわれもSFを取り入れ、身に付けていかなければならないとも思いました。
大橋 イーロン・マスクは火星に移住することを考えていて、そこから逆算して今、何が必要かと考えて電気自動車や宇宙開発、AI「TruthGPT」などを事業化しています。宇宙と自然の理解を目標に掲げられたら、「地球で」「日本で」という視点で考えていてはとてもじゃないけど太刀打ちできません。
内閣府がムーンショット計画で「2050年までに人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現する」と打ち上げていますが、ある意味そこまで妄想しないと追い付けないのだろうと、SFプロトタイピングを提供している僕も思います。
久下沼 SFプロトタイピングに取り組むことにした理由はもう一つあります。新規事業を検討しているチームは若い社員が多いので、会社としてのビジョンだけでなく、自分たちのビジョンを持って欲しいと考えたからです。そのための教育を兼ねる意味もありました。
大橋 最近では、頭を柔らかくするためにSFプロトタイピングを活用する事例が多くなっています。どれだけ発想を飛ばすことができるか、発想を柔軟にできるかに取り組んでいる企業が多い状態です。
黒木 開発に関わるのなら、基礎教養としてSFを読んでほしいと思います。ソフトウェアに携わっている人ならSFを読んでいるかもしれませんが、素材や材料を開発している開発者はあまりSFを読んでいないように思います。材料開発SFはあまりないですからね。SFと距離があるのかもしれません。
大橋 SFプロトタイピングに取り組んでみて、皆さんの感想などはいかがだったのでしょう?
黒木 参加したメンバーは楽しかったと感想を言っています。
大橋 ファシリテーションしていた身としては、参加された皆さんは無口というか、発言が少なかったので不安でした(笑)
黒木 弊社の社員は研修に慣れていない人が多いんです。
久下沼 コロナ禍で対面の打ち合わせも減ったこともあり、自分の考えを人に説明することが少なくなっています。
大橋 今回のSFプロトタイピングでは、参加者の意見を付箋に書いてもらい、それを前のホワイトボードに貼ってもらうスタイルにしました。
久下沼 貼るために席を立った時、お互いに声を掛け合うこともあったので、それは良かったと思っています。回を重ねることで、意見が言いやすくなったと感じました。
大橋 SF小説を書いてもらったSF作家の松崎有理さんから、「エンジニアはトークより紙に書いてもらう方がいい」とアドバイスをもらいました。松崎さんはエンジニアの経験があり、エンジニアの気持ちが分かる方だったので助かりました。
久下沼 弊社のエンジニアは、自分の実験結果を資料にまとめて説明するのには慣れていても、想像したことをアウトプットする体験は会社では初めてだったと思います。
大橋 皆さん、付箋に黙々と書いて貼ってくれる。そういう作業は好きなんだろうと思いました。ただし、自分の考えを言葉にすることも必要だと思います。
今、多くの企業がコミュニケーション力を強めようとしています。その傾向はB2Cの企業に強く感じます。じゃあB2Bはコミュニケーション力や自由な発想力が不要かというと、そんなことはないと思います。もっというと多くのお客さまは常識的な提案よりも、斜め45度の提案を求めています(結果として常識的な提案をチョイスする方が多いですが)、そんな提案をするには、自分の頭を柔らかくする必要があると考えています。
久下沼 弊社の会議では上司の話を聞く場面が多く、自分から積極的に発言する機会が少なかったのが原因だと思います。そこを変えるため、2030年に向けて社内の風土を変革しようとする取り組みもスタートしています。会社全体でもっと、皆んなが話しやすい雰囲気にする必要もあると考えています。
大橋 SFプロトタイピングなら、会議と違って何を言ってもいいという雰囲気を作れるので、練習にも良いかもしれませんね。
久下沼 私もSFプロトタイピングに参加させてもらったのですが、会話した何人かは「こんなことを書いていいのか」と恥ずかしがっているところがありました。だから、私は“バカ”になろうと(笑)
大橋 久下沼さんの「歳を取っても見た目は若々しさを保てる、今ある美顔器よりもハイスペックな宇宙服一体型美顔器」というアイデアは面白かったです(笑)。SFプロトタイピングでは何を言っても許されます。恥ずかしさは取ってもらい、めちゃくちゃなことを言ってもらった方が良いワークショップになります。
久下沼 恥ずかしいと思うのは「否定されないかな、変だと思われないかな」という不安が根底にあるからです。でも、SFプロトタイピングだと変な方がいいのかなと思いました(笑)。またテーマが「未来を考える」だったので意見を言いやすい雰囲気もありました。
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