ITmedia NEWS > 社会とIT >
STUDIO PRO

誤解の多い「AIと著作権の関係」 クリエイターが真に戦うべき相手、被害の実態からひもとく小寺信良のIT大作戦(4/4 ページ)

» 2023年06月29日 14時30分 公開
[小寺信良ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

クリエイターが戦う相手は「AIそのもの」ではない

 他方で、もはや著作権の範囲内では収まらない問題も報告されている。

  • 「4.作品ではなく私の顔写真を使われました。Alユーザーが私を侮辱するために卑猥で尊厳を破壊するようなイラストを生成して個人メールに送ってきます」
  • 「45.嫌がらせ目的でのi2i」
  • 「47.絵柄をLoraで学習され営利活動に利用される。配信中に描いている絵をi2iで複製され「自分が先に描いた、盗作だ」と言われる。AIに否定的な意見を言うと執拗に自分の絵をi2iに通したものを送りつけられ「AIの方が上手いのだから手描きなどやめろ」と嫌がらせをされる」

 これなどは、名誉毀損や誹謗中傷、強迫とも解釈もできる事例である。著作権法でどうにかできる問題ではなく、さらに言えばAIも問題の本質ではない。SNS上のトラブルと変わりがなくなっている。

 基本的に、AIがあるからクリエイターは不要という考え方は間違いである。出力結果として人が描いたものと変わらないものが必要なのであれば、その学習ソースには人が描いたものを学習させ続ける必要があるからである。

 先日面白い記事があった。生成AIに“生成AIが作った文章”を学習させ続けると、役立たずになるそうである。これは文章の例だが、原理としては画像も同じことが起こりうると考えられる。例えば現在の画像生成AIは指の表現に誤りが多いが、これを誰も訂正しないままグルグル学習していれば、加速度的にあり得ない指が出力されてくるはずだ。

 筆者も文章書きという意味ではクリエイターであり、AIの登場によってなんらかの影響を受けると言ってもいいと思うが、われわれはAIそのものと戦うべきなのか、というところは重要な岐路だ。これはWinny事件と同様、技術に罪が問えるかという問題に見える。クリエイターが本来戦わなければならない相手は、クリエイターやAIの未来を毀損(きそん)するような使い方をする利用者であろう。

 一方でクリエイターがAIを使い出せば、かなりクリエイティブである。アンケートの回答にもその片りんが垣間見える。

  • 「5.自作モデルで自作を集中学習させている例。私は、私がいなくなっても、私の作品のミームが継続生産されるように、自作モデルを作ってAに自ら配布している」

 1980年代、高音質なリズムマシンが開発され、大ブームになった時、「もう人間のドラマーはいらないんじゃ…」と言われた時期がある。だが現実は、トレーニングされた人間のドラマーが駆逐されることはなかった。「AIは違う」という意見もあるだろうが、本当に人間の創造性が要らなくなる時は、人間自体が要らなくなる時なのではないだろうか。

前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.