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“AIグラビア”でよくない? 生成AI時代に現実はどこまで必要か(2/2 ページ)

» 2023年07月08日 10時00分 公開
[井上輝一ITmedia]
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松尾 モデルさんにとっては不利益になりえますよね。ちょっと前には、セクシー女優さんがLoRA(ローラ)というファインチューニング用のファイルを自由に使っていいと公開したのも話題になっていました。

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 僕は持っている妻の写真だけでファインチューニングして、それは他の誰にも使わせずに自分だけでやっているんですが、そういうコピーが人の手に渡るリスクはあるなと思っていて……というわけでAIの遺電子の人格コピーの話に持っていきたいんですが。

AIがいつでも一瞬で自分に最適化したコンテンツを作ってくれる世界

山田 人格のコピーガードとかないのか、とか自分の作品に突っ込みたくもなりますが。デジタル人格ができてしまうといろんな使い方ができてしまうし、社会的なハレーションも起きてくるでしょう。

 でもAIグラビアについては、個人的には「全然いいじゃん」って見て思ったりもして。住み分けになるのかな。現実にいることの重みが自分をときめかせてくれるのもあるけれど、空想の人物にも人間はときめくことができる。漫画やアニメの2次元イラストがまさにそう。

 今後はそこに「写真とみまごうような画像」も加わってくる。それが現実の誰かによく似た何かとして出力されたときには、肖像権などのリスクや問題がいろいろあると思うが、全く架空の存在としてデジタル人格みたいなものが出てくるのは面白い。最近は、TikTokでもAI生成の動画が若者に人気だったりする。

 面白いのが、AI生成された人物にちゃんと架空のストーリーが付与されていること。昔は太ってたけどダイエットに成功して、今は港区女子、みたいな物語がでっち上げられていて、それにみんな共感したり面白がったりしている。

 TikTokって、「学校でこんなことしましたイェイ」みたいな動画もよくありますが、あれも「実在じゃなくていいんじゃないか」とも思います。架空の学校の景色の前で架空の女子高生がキャッキャウフフしているだけで、他のリアルな女子高生もまねしようと思えるとなれば、現象としては変わらない。

 となると、SNSってSNSの企業が作ったAIサクラで満たされるのかもしれない。

松尾 マッチングとかだとすでにそうかも。

山田 それが動画やSNSでもそうなってもおかしくない。

松尾 そういう意味でサイバーエージェントがやったのは的確ですよね。広告の文言を生成AIで作るようになった。なぜサイバーエージェントがLLMをやるのかという疑問に思った人もいたと思うが、ちゃんと理由があって、それで何十人も、首を切られたのか配置転換なのかは分からないが、キャッチコピー自体を人が作る必要がなくなった。

山田 マスメディアを通じて、大衆に向けて1つのコンテンツを出して最大の効果を得るのが従来のメディアでしたよね。そのためにコンテンツを研ぎ澄まし、キャッチーなものにしていく必要があった。それがインターネットの登場でそれぞれの顧客をプロファイリングしてその人に適したものを出せるようになり始めた。でも一人一人の広告を作るコストを考えると、やっぱり完全なカスタマイズはできない。

 それが、人工知能が24時間いつでも一瞬でいろいろなコンテンツを作るという世界になったときに、松尾さんだけのための広告みたいなものを作れてしまう。そうすると大衆向けに作ったセンスの光るキャッチコピーのパワーより、「子供生まれたんだからこれ必要でしょ」くらいの、凡庸な訴求の仕方で十分に効果が出るみたいなことにもなってくるかもしれない。

 そういう世界になってくるとマスコミュニケーションの在り方が変わってくる気もしますね。

 ただ、そうは言っても大衆に向けたキャッチコピーみたいな世界は残るとは思っています。みんなと共通して語り合えるコンテンツを人間はしばらくは欲し続けるんじゃないかと。そもそも、ネットによって興味の細分化が起きて、ビッグヒットみたいなものはなくなるという見方もあったけど、実際には鬼滅の刃みたいな現象は起き続けています。

 とはいえ、AIが進展すれば、旧来とは違うコンテンツや広告というのが増えて、両極化みたいなことは起きる可能性はあるかもしれません。仕事が減るとか業種ごと消えるとか、そういうことは普通にありえるし、海外では反対運動も続々と起きています。「面白い」けど「面白がっているだけじゃ済まなそうだ」というのがAIの難しいところですね。

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