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レーザービームを放ち、1km間を9Gbpsで無線通信する携帯型システム 中国の研究者らが開発Innovative Tech

» 2023年10月23日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

Twitter: @shiropen2

 中国の南京大学などに所属する研究者らが発表した論文「High-speed free-space optical communication using standard fiber communication components without optical amplification」は、レーザービームを放射し、1km離れた2点間で約9Gbpsの無線通信を行う携帯型の通信システムに関する研究報告である。

A地点から1km離れたB地点へレーザービームを放ち、無線通信するシステム

 インターネットの接続が速く、途切れることなく安定している環境が求められる今日、光ファイバーの接続が得られない場所での通信は困難を伴うことが多い。しかし「FSO」(フリースペース光通信)という新技術を利用すれば、光ファイバーのない場所でも高速な通信が実現可能である。

 FSOは、一方のデバイスからレーザー光を放射し、別の離れたデバイスに光信号を届ける技術だ。これにより、物理的なケーブルが不要となり、高速かつ安全、かつライセンス不要の通信が可能となる。

 この研究では、高速ワイヤレス通信の可能性を大きく広げる小型FSOシステムを開発した。このシステムは、1kmの距離で9.16Gbpsの通信速度を実現。さらに、最大4kmでのテスト結果でも、平均損失は18dBにとどまった。良好な気象条件と光増幅技術の併用で、さらに長距離のFSO通信が期待できる。

 このFSOシステムは、2つのFSOデバイスから構成。1つのデバイスのサイズは、45(幅)×40(高さ)×35(奥行)cm、重量は9.5kg、消費電力は約10Wとなっている。

 各デバイスは、光トランシーバーモジュール、取得・指向・追尾(APT)システム、制御電子部品を内蔵しており、これらの部品は屋外利用を考慮して頑丈なケースに密封されている。APTシステムは、低回折の光学設計と効率的な4段階クローズドループフィードバック制御を特長としている。

FSOデバイスの設計

 このFSOシステムは、さまざまな高度なセンサーと計算技術を組み合わせ、非常に高い精度で動的なターゲットを追尾する能力を持っている。わずか10分以内に目標を迅速かつ正確に捉え、継続的にその位置を追跡することができる。このような精密な追尾技術のおかげで、1kmの距離でも通信の品質低下は最小限にとどまる。実際のテストでは、小型車にFSOデバイスを取り付けて移動させても、相手側との無線通信が途切れることなく継続された。

 さらに特筆すべきは、このシステムが特別な光増強装置を必要とせず、市販の光ファイバー通信トランシーバーモジュールを使用してこれらの高度な機能を達成している点である。

Source and Image Credits: Hua-Ying Liu, Yao Zhang, Xiaoyi Liu, Luyi Sun, Pengfei Fan, Xiaohui Tian, Dong Pan, Mo Yuan, Zhijun Yin, Guilu Long, Shi-Ning Zhu, and Zhenda Xie “High-speed free-space optical communication using standard fiber communication components without optical amplification,” Advanced Photonics Nexus 2(6), 065001(14 October 2023). https://doi.org/10.1117/1.APN.2.6.065001



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