南さんは、このカードケースを二つ、用途別にして使い分けているという。「一つは、ほぼ使わないカードを金庫に入れておくため、もう一つは持ち歩くためのものです。マイナンバーカードなどは、普段は金庫のカードケースに入れていますが、必要なときには、持ち歩き用に入れ替えます。金庫用には沢山のカードが必要ですが、持ち歩き用はそんなに枚数はいりません。そこで、その両方に対応できるサイズを考えました」。
その結果が、10枚のカードを入れても扇型に開けるサイズだ。サイズも実際に使ってみて必要なサイズが選択されている。
「マネークリップや輪ゴムなどで、カードをまとめて持ち歩いている人もいますよね。それが確かにシンプルで、最もミニマルだと思います。ただ、私自身は、カードの痛みや汚れが、あまり気持ち良いものではなく、それを防ぐために、下の三角の部分は以外は外部に露出しないようにしました。下の三角の部分は、押し出すという機能のためにカードを露出させています。でも、落としたりしても、その部分が地面にぶつかることがないように作っています。財布も、バッグも、収納するという役目の他に、整理して、取り出しやすく、入れやすくするという役目もありますので、そちらの方に重点を置きました。実は、一箇所に収納するより、長財布のカードケースのように、段々に収納するほうが、見やすいのです。ただ、それだと大きくなります。小さいサイズのまま、どうやって視認性や取り出しやすさを高めるかが今回のデザインのポイントになりました」と南さん。
私も、使っていて、そこがこの製品の最大の特長だと思った。ミニマムであること、シンプルであることが目標ではなく、サイズを最小限に留めながら、カードは10枚収納できて、しかも、ケース内部で扇状に広げられる余裕がある幅は確保。フラップ裏にポケットを用意するという余分も、機能を考えて装備する。ミニマムとは何かを考える時の教材として、こんなにぴったりなものも中々ない。
その便利さや面白さが、使ってみないと分からないし、一度分かってしまうと、あまりに普通に使えるから、やっぱり凄さが忘れられてしまうということも含めて、ミニマムな製品だと思うのだ。
「実は、『取り出しやすく、世界一軽いカードケース』というのが当初のコンセプトでした。それが、最終的には、キャッシュレス、カードレスの時代に向けて、その一歩手前という裏コンセプトのケースとなりました」と南さん。多分「取り出しやすく世界一軽いカードケース」も作ろうと思えば作れたと思うのだけど、それをせず、現状に合わせた「便利」を取る。
「使いやすい」と「便利」は、重なるところも多いけれど、別物だということが分かっている製品作りができているから、バリューイノベーションの製品は使い出すと、うっかり愛用品になってしまうのだと思う。その認識は、IT系サービスや、ガジェットなどの開発にこそ必要だと思うのだけど、今のところは、こういう革製品や調理器具などの金属製品に先行されている気がする。
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