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「コンデジ復活」は本当なのか?小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)

» 2025年08月27日 15時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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「エモ」としてのコンデジ

 20年ごろから急速に盛り上がってきたのが、「平成レトロ」というトレンドである。中心になっているのは、バブル期以降のファッションや文化だ。

 平成時代は、89年から19年までを指す。ちょうどコンデジの黎明期から衰退期までをすっぽりカバーしており、まさにコンデジは平成の産物だ。昭和生まれにとっては華やかで懐かしいガジェットであり、若い人にとっては生まれる前のまだ日本が十分イケイケだった頃のカルチャーだ。

 現在20代の人は、初めて自分のカメラと言えるものがスマホだったという人も多いのではないだろうか。簡単になんでも勝手に美しく撮れるカメラは、まあ誰が撮っても結果は大して変わらない。人と違ったものが表現したければ、フィルターなどの後処理が必須だった。

 だが平成のコンデジの絵は、解像度の低さやセンサーの感度の低さなどが相まって、「エモい」絵が撮れる。後処理でエモくするのではなく、もう勝手に「エモい」のである。

 またその外観も、どことなくバブルを彷彿とさせるキラキラ感があったり、チープでレトロだったりする。これもまたガジェットとして「エモい」のである。

 モノが中古しかないため、価格も安い。そもそも新品でもそれほど高くはなかったのだが、中には中古なのに新品価格より高くなっているものも出てきている。中古カメラはネットで漁るだけでなく、リアル店舗を巡って偶然見つけるといった楽しみもある。化石発掘みたいなものである。

 ただ中古市場では、人気だ、売れているという話は聞くが、データとしては把握しづらい。何がどれだけいくらで売れたかといった流量は、販売業者の肌感覚に頼るしかないのが実情であり、全体像が把握できない。

 また古いものをありがたがるレトロムーブメントは、それほど長続きしたことがない。新しくモノが作られるわけではないので、ある程度掘り下げたら、いつかは底にたどり着くわけだ。加えて、ある程度いじくり回したら満足して飽きるというのは避けられない傾向であり、長期的にずっと追いかけ続けるという人は少ない。

 また電気製品であるために、どうしても製品寿命がある。本体も劣化するだろうし、バッテリーが入手できない、メディアがもうないといった理由から、実用に耐える「余命」は、それほど長くない。中古エレキ製品ブームというのは、危うく脆いムーブメントである。

 一方で昔なら見向きもされなかったであろう低価格のカメラが、スナップ写真好きの間で人気となっている。Kodakの「PIXPRO C1」は実売2万円程度のレトロチックなカメラだが、映りは全体的に黄色っぽいし、真ん中だけ色が違うなど、色々「エモい」絵が撮れる。

Kodak「PIXPRO C1」

 ほとんどのショップでは売り切れとなっているが、実はKODAKは今年8月の決算報告で、事業停止するのではないかとささやかれている。そもそも元々のKodakは12年に一度破産しており、特許等の資産を売却したのち規模を大幅に縮小して再出発した。その再出発したKodakも破産しそうというのでは、待っていても製品が入荷するのかわからない。こうした事情もあって、とりあえず「押さえた」人も多かったのだろう。

 同じような写りをする中国製のカメラはいくらでもありそうだし、実際このカメラもおそらく中国企業のOEMだと思われるが、ブランドがあるのとないのとでは評価が違ってくる。「エモい」と「ショボい」は、同じではないのだ。

ハイブランドな趣味としてのコンデジ

 他方でレンズ交換できないながらも、ボディの質感や独特の写真の仕上がりを武器に、ハイエンドカメラとして再起動しようという動きも出てきている。

 24年発売の富士フイルム「X100VI」は、アナログの操作感を前面に押し出し、撮影する高揚感を演出した。同社の強みであるフィルムテイストで撮影できる機能も、それを後押しした。市場価格30万円超えの高級機だが、写真上級者を中心に大ヒット商品となった。

富士フイルム「X100VI」

 フィルムカメラの時代には、普段は一眼レフを使うプロも、サブカメラとしてコンパクトカメラを常用した人も多い。OLYMPUS XAなどは、そうした時代の名器である。こうしたポジションにハマった、とも言える。

 さらに富士フイルムが今年仕掛けた「X half」は、35mmフィルムを半分使って2倍撮影できた「ハーフカメラ」をデジタル的に再現したことで、こちらもまた爆発的なヒット商品となった。もちろん操作感だけでなく、撮影された写真もフィルムテイストだ。

富士フイルム「X half」

 ソニーが今年8月に発売した「RX1R III」は、前作から実に9年半という時を超えて復活したコンデジだ。単焦点レンズにフルサイズセンサー、市場想定価格は66万円前後という、もはやコンデジなどと気軽に呼んではいけないウルトラハイエンドモデルである。どれぐらい売れているのか気になるところだが、発売間もないこともあってまだデータは出ていないようだ。

ソニー「RX1R III」

 これらの高級カメラは、若い人が背伸びして買うものではなく、定年や引退した人が「一生もの」として買うカメラ、ということだろう。筆者も引退したら、残りの人生を楽しむため、最後にいいカメラを買いたいという気持ちはある。言い換えれば、Leica以外にも選択肢ができた、ということである。

 こうしてみると、昨年から今年の「コンデジ復活」は、複数の要因が絡み合って生まれたトレンドであり、今後このまま伸び続けると見るのは危ういように思える。特にレトロブームにおける「エモい」文脈は水ものであり、いつ収束してもおかしくない。

 Vlog路線は堅調だが、これはコンデジでなくても構わない。コンパクトミラーレスも好調だし、アクションカメラやDJI Osmo Pocketなどもこの文脈に入ってくる。むしろ拡張性がないコンデジ路線は次第にウケなくなるとも考えられる。

 一方で金銭的余裕のある人をターゲットとしたレトロハイブランド路線は、堅調に推移するものと見ていいのではないだろうか。毎年新モデルを投入して数を捌く商売から、1モデルを何年もかけて丁寧に売っていくという商売への転換は、合理性よりもめんどくさいお作法が存在する方がやりやすい。何がいいのかわららないという人には、レンズの埃を拭いながら、「いや、これはわかる人にしかわからんのです」でいいのだ。

 この答えは、あと2〜3年で出るのではないだろうか。

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