さて問題は、これがAppleの助けになり得るか?という話だ。結論から言えば非常に厳しい。
理由は3つある。1つ目はその生産量である。もともとのFab(Fab 1)に加えて現在はFab 2も稼働しており、また年内にはFab 3も稼働するという予定だ。この仕組みが完成すると月産35万枚のウェハを量産可能と見積もられている。今後数年以内には月産60万枚に達するという報道もある程で、ウェハ生産量だけ見れば26年中にMicron(月産37.5万枚)に肉薄する規模になる。
ところがCXMTの第4世代というのは他社で言う1znm世代。先述したようにSamsungは1cnm、SK Hynixは1bnm、Micronは1γnm世代の量産に入っており、SamsungとMicronは3世代、SK Hynixも2世代先行している形だ。
ラフに言えば1世代進むごとに20%程度の面積削減(同じ面積なら容量が20%増し)になるとされており、つまり同じウェハであってもそこで実現できる記憶容量は他社が40〜70%ほど多い計算になる。逆に言えば同じ容量を実現しようとすると、CXMTは40〜70%多いウェハを消費する事になる。つまり出荷できるDRAMチップの数はその分少なくなる。
2つ目はHBMの対応である。CXMTは26年、HBM3をやはり第4世代DRAMを利用して実現する予定であったが、完成が遅れている。主な理由はDRAMダイの積層とベースダイの構築で、開発が遅れているらしい。こちらは中国でAIアクセラレータを開発している企業からの要望が強く、中国政府的にも力を入れている部分なのだが、問題はこのHBMは通常のDDR5より非常に効率が悪い事だ。
HBMの場合はDRAMのダイの中央にTSV(積層したチップ同士をつなぐ電極)の領域が設けられる。このTSV領域を使って縦方向に信号のやりとりをする形になるが、これがあるためにHBM3のConversion Ratio(1枚のウェハからとれるbit量)は、通常のDDR5と比較して1/3ほどになるとされる。要するに同じ容量のメモリを構築しようとすると、HBM3では通常のDRAMの3倍のウェハを消費する事になる。
ビジネス的に言えばHBM3の生産を諦めれば生産量不足には陥らないはずだが、中国政府の肝いりな事業だけにこれを諦めるという選択肢がない。結果、HBM3の量産が始まると通常のDDR5とかLPDDR5Xの生産を圧迫する事になりかねない。
3つ目が政治的な問題だ。そもそもCXMTが設立された理由は冒頭に述べたMIC2025で、それもあってCXMTはまず中国国内の需要を満たす事が求められ、過剰があったら海外に販売機会を求めることになる。
そのため、仮にAppleがiPhoneに使うメモリ全部をCXMTから購入しようとしても、現実問題として不可能だろう。そもそもAppleは割と性能の高い、いわばCXMTの生産するDRAMの上澄みにあたる製品を求めると思われるが、これは中国国内でも最も需要が高い製品であり、中国市場を無視してAppleに販売すべき理由がCXMTには無いことになる。
そもそもトランプ大統領がアメリカ回帰を高らかにうたい、Appleが米Intelと提携して国内でチップを製造するといった動向の中で、メモリを中国に依存する事は決して好ましい動きとは言えないだろう。
現在はあくまで評価中というレベルだから特に文句はつかないだろうが、今後は「SoCをアメリカ生産に切り替えているのに何でメモリは米国生産(≒MicronのDRAM)を使わないんだ?」と言われても不思議ではない。
前編でご紹介したMicronのサダナCBOやメロートラCEOの発言は、こうした背景を考慮すると、かなり強烈な意趣返しであることが伺える。「文句があるなら買わなくていいよ」というのは、かつてのAppleの態度そのものだからだ。
余談だが、CXMTにしても価格そのものはMicronなどと比べて大差ないため、仮にCXMTに乗り換えたからといってiPhoneの原価が下がりはしないだろう。要するに今の対策ではなく、今後の対策としてCXMTを利用するというポーズを示してはいるものの、空回りで終わりそう、というのが筆者の視点からの見通しである。
ちなみにこうした影響はApple以外にも起きており、その結果が売上の低下につながっている。Appleもこの影響から逃れることは難しいというワケだ。
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