　Adobeは年に1度、同社の製品の最新動向や今後の方向性を紹介するAdobe MAXというイベントを開催する（その日本版が11月20日、日本でも開催予定）。その2016年、2017年のイベントでも、実はAdobeとAppleの両方の承認を得たVIPだけが参加できる秘密のレセプションが行われており、それがまさにMake it On Mobileのためのレセプションとなっていた。

　Appleは、毎年、このレセプションにあわせるように最新のiPadを発表。Make It On Mobileのクリエリターたちが最新のiPad Proに触れる場にもなっていた。

　2018年のiPad Proの発表は、何らかの理由でタイミングが遅れてしまったのかAdobe MAX後の発表になってしまった。そのため、新iPad Proとの組み合わせでのプレゼンテーションは叶わなかったものの、Adobe MAXでの基調講演では、AdobeがiPad Proをクリエイター向けのツールとして成功させることにどれだけ真剣に取り組んでいるかの意気込みが十分伝わってくる内容になっていた。

　そして、Appleの重役は、めったなことでは他社のイベントに参加しないことで知られているが、なんと新製品発表会にもよく登場するAppleワールドワイドマーケティング担当上級副社長のフィル・シラー氏が、Adobe MAXの基調講演に登壇して大歓迎を受けたのだ。

2018年のAdobe Maxでは、Appleのフィル・シラー氏も登壇

　さて、そんなAdobeのiPadに関する発表は主に2つ。

　1つはPhotoshopをiPadに完全移植すること。実はこれまでにもiPadには「Photoshop Mix」や「Photoshop Fix」など「Photoshop」の名を冠したアプリが幾つかリリースされていた。しかし、いずれも特定の用途向けに最適化したアプリであって、完全なPhotoshopではなかった。

　そんな中、AdobeはPC版と同じ機能が使える完全版のPhotoshopを、iPadでの作法にあわせて使いやすくした上で2019年から提供を開始すると発表した。

2019年には完全版のPhotoshopがiPad Pro向けアプリとしてリリースされる

　「iPadでは製品の大枠作りはするけれど、最終的な仕上げはPhotoshopが動くPCで」といったワークフローをとっていたクリエイターは、これからは完全にPCいらずでの製作が可能になりそうだ。

　もう1つの重要な発表が「Project Gemini」。実はこれは先の2016年のイベントで触れていた「Project Proteus」に、Make It On Mobileに参加したクリエイターらの意見を取り入れた上で、発展させたものらしい。

Project Gemini（旧Project Proteus）、Photoshopのようなビットマップ表現とIllustratorのようなベクター表現を混在させた状態で編集できる

Project Geminiのデモ

　Illustratorのようにベクターグラフィックスで、簡単に作図ができる一方で、まるでそれがビットマップグラフィックであるように消しゴムを使って一部を消したりもできる。

　それだけでなく油絵モードを使えば、まるで本物の油絵の具で描いたような絵の具の盛り上がりによる影が再現されたり、水彩画モードで描いたら、ペンを止めている間、じわーっと絵の具が滲んでいく様子が楽しめたり、出来上がった作品は（起伏さえ見なければ）本当の油絵や水彩画と区別がつかなさそうな品質だ。

　恐らくProject Proteusの時代から数えてだろうが、Adobeはこの技術を「10年かけて開発してきた」といっており、それだけに高い完成度を感じた。

　今回、AppleスペシャルイベントでどんなiPadが発表されるかは、知る由がないが、そこで使われるであろう、重要アプリの1つが、AdobeのPhotoshopとProject Geminiであることは間違いないようだ。そのためか、今回の発表会には、メディア関係者だけでなく、イラストレーターや漫画家など幅広いクリエイターたちも招待されている。

　2年前のニューヨーク、たった16組のクリエイターで始まった「Make It On Mobile」の革命が、いよいよ世界中のクリエイターに広まるタイミングが来たのかもしれない。