Apple新製品イベントの前に知っておきたい2年以上にわたる取り組み(3/3 ページ)

» 2018年10月30日 14時41分 公開
[林信行ITmedia]
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AppleとAdobe――ペンコンピューティングの因縁

 この2年の動向を振り返ると、AppleとAdobeの間にある因縁の面白さを感じる。

 AdobeはAppleと非常に関係が深い会社だ。Appleが世界で初めて、当時のMacよりも高価なレーザープリンタを商品化したとき、スティーブ・ジョブズがきれいな印刷を可能にするソフトウェア技術を模索して発見したのが、ゼロックスパロアルト研究所から独立したAdobeの創業者の2人で、ジョブズはポケットマネーを出して、Adobeの創業資金の一部を出資した。

 その後、AppleとAdobeとAldus(現在はAdobeの一部)の3社が、現在、世界中で当たり前に行われている出版技術、DTP(Desktop Publishing=電子卓上出版)を世に広め、本や雑誌の作られ方が一変してしまった(その後、AppleやAdobeは、その紙の出版物を脅かすインターネット情報発信や電子書籍でも度々手を組んでいる)。

 Adobeのツールは、もう30年近くもの間、デジタル制作をするクリエイターにとって欠かせない存在だが、同様にイラスト描きや写真関係など、Appleが提供するツール、つまりMacも、多くのクリエイターにとって欠かせない存在だった。

 そんなMacが、今、クリエイター向けのツールとしての地位を脅かされようとしている。その一部に取って代わろうとしているのは、どうやら同じAppleのiPad Proになりそうだ。

 Adobeは本当にAppleが好きなんだな、と思い出すエピソードがある。

 Project Geminiの開発が10年以上に及んでいることは記したが、Adobeにはタブレット+ペンの組み合わせこそがクリエイターの未来の道具だと信じている人たちが多い。そして、AppleがなかなかiPadのペン入力に対応しなかったことに業を煮やしていた。

 2014年に開催されたAdobe MAXでは、それを察知したMicrosoftがスポンサーとなった。どちらかというとビジネスマン向けのPCというイメージが強いSurface Proにとっては、Adobeのクリエイター向けツールを獲得することは、顧客層を拡大する上でも重要な契機だった。Microsoftのサテヤ・ナデラCEO自らAdobe MAXの基調講演に登壇し、Adobe MAX参加者全員にSurface Pro 3をプレゼント、という大盤振る舞いも行った。

 Adobeもそれに応えるようにIllustratorなどのソフトをSurface Proのペン入力に最適化する発表を行った。しかし、その年のAdobe MAXでも、一部のAdobe重役はインタビューで「iPadがペン入力に対応してくれたら、すぐにそちらにも対応する」と語っていた。果たして、その1年後にApple Pencilに対応したiPad Proが発表され、その直後にMake It On Mobileイベントが開催されたのだ。

 ちなみに、こうした一連の動きをAppleの側からサポートしてきたキーパーソンがiOSのプロダクトマーケティングを担当している副社長のマイケル・チャオ氏だ。iPadのさまざまな応用を常に監視し、後押ししてきた人物だが、古くからAppleを知っている人は、彼こそがAppleにおけるペン入力のマスターであることに気が付くだろう。

 チャオ氏は、1993年に登場して「PDA」という言葉が誕生するきっかけを作ったApple初のペン入力デバイス「Newton」の生みの親でもあり、2018年のAdobe MAXで行われたMake It On Mobileのスペシャルレセプションでも、珍しくAppleとAdobe両社の関係を称賛するスピーチを行っていた。

 iPadが開拓した新カテゴリーの製品は、農林水産業やファッション業界、医療業界など、これまでPCによるITのイノベーションが少なかった領域でどんどん活用され、全く新しい使い方を次々と誕生させていった(また、一般家庭では手に持てるWebブラウザ、動画ビュワーや電子書籍リーダーとして定着した)。しかし、いずれも「情報を見る」といった使い方が中心で、何か新しい情報や「コンテンツを生み出す・作る」といった使い方はあまりされてこなかった。

 今回、Appleのスペシャルイベントで登場が期待されている発表される新型のiPadは、Adobeからも大きな支援を得て、コンテンツ製作のためのタブレットデバイス、という新しい使い方を広めるきっかけになる製品かもしれない。

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