―― 重くて、遅いままの組織に共通している点は何ですか。
楠見 ひと言でいえば、現状への安心感です。無理をしなくても、守られている安心感がどこかにあるのではないでしょうか。また、必要以上に内部調整に労力や手間をかけており、そこにスピードが上がらない理由があります。なぜ、ここまで内部調整に時間をかけているのかということを、それぞれの組織で改めて考えてもらいたいと思っています。
パナソニックグループでは、2022年4月から事業会社制に移行しましたが、残念ながら、それぞれの事業に最適な経営の仕方や、創意工夫への努力が足りていないと感じています。持株会社がもっと踏み込むべきだったという反省もあります。
課題が解決されていないからこそ、今の業績にとどまっている。パナソニック コネクトのように、自分で走っていく方向を打ち出し、自ら変わっていく形になっていかなくてはなりません。
―― 楠見グループCEOは就任以来、創業者である松下幸之助氏の言葉をとても大切にしていることを感じます。今、大事にしている創業者の言葉は何ですか。
楠見 創業者は、経営にとって大切な言葉を数多く残しています。ただ、どの言葉を優先すべきがという考え方はなくて、事業を推進するそれぞれの場面や経営課題に直面する中で、いくつかの言葉が浮かび、そこでハッと気づかされることがあります。
それらにおいて、頭の中にずっと残っている言葉が1つあります。それは、入社直後の研修で見せられた創業者のビデオの中で語られていた「これではいかん!」という言葉なんです。
実は、創業者はこの言葉を、あちこちのシーンで何度も語っています。本当に駄目な状況で、「これではいかん!」と言っているのは当然ですが、平時の状況だと思えるような中でも課題を見つけて、「これではいかん!」と言っているケースがあります。創業者には、「現状を是としない」という考え方がベースにあります。
なぜか分からないのですが、私は新入社員のときから、ずっとこの言葉が頭の中に残っているんですよ。私自身も、ずっと仕事をしてきて、物事の見方の目線は常に「これではいかん!」という姿勢だったと思っています。今のパナソニックグループに対しても、「これではいかん!」という姿勢で取り組んでいます。
―― ところで、米ラスベガスで開催される「CES 2025」のオープニングキーノートに、楠見グループCEOが登壇します。2013年1月に、津賀一宏社長(現会長)がキーノートに登壇した際には、パナソニックがB2Bの企業であることを明確に示し、TVメーカーや家電メーカーというそれまでのイメージを一新しました。今回のCESでは、どんな発信をしますか。
楠見 キーノートの内容は、AIが軸になります。CESでは12年ぶりのキーノートですし、パナソニックとAIには大きな距離があると感じている人も多いと思います。CESは、世界中の人々が集まり、最先端のテクノロジーを体感し、インスピレーションを得ることができる展示会であり、業界で最も重要な展示会の1つです。その展示会において、オープニングキーノートを行うことは、米国市場とコミュニケーションを取る機会になるだけでなく、パナソニックグループが目指すところを、世界中の人々と共有する機会でもあります。
今回のキーノートでは、AIでどんなことをやろうとしているのかを知ってもらい、パナソニックグループの未来に可能性を感じてもらうことが大切だと思っています。
また、多くのパートナーと共に、変革を生み出していく姿もお見せします。2025年1月7日(日本時間の1月8日)に行われるCES 2025のオープニングキーノートを、ぜひ楽しみにしていてください。
なぜAI全振りを表明したのか パナソニックグループの「CES 2025」ブースを見て分かったこと
上意下達文化からの脱却 危機的状況のパナソニックを打開するために楠見グループCEOが掲げる「啓」から「更」
「日本社会の幸福がなくてはBoxの幸福はない」 古市社長がこだわる組織作り
テクノロジーだけに頼らず人の力を使う! TOKIUMの導入企業数がうなぎ登りなワケ
お客さまに寄り添うしかない エプソン販売の栗林社長が「環境」「サスティナビリティ」にこだわるワケCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.