ソニーとTCLの合弁が意味する「新しいソニー」の完成形――ソニーが“家電企業”の殻を脱いだ日:本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/5 ページ)

» 2026年02月06日 18時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 ソニーと中国TCL Electronics Holdings(TCL)は1月20日、ホームエンタテインメント事業における戦略的提携に向けて基本合意(MOU)を結び、協議を開始した。TVとホームオーディオ(サウンドバーなど)を新設の合弁会社へ承継(移管)する構想で、出資比率はTCLが51%、ソニーが49%となる。確定契約の締結を経て、合弁会社は2027年4月の事業開始を目指している。

 このニュースは「ついにソニーがTVを手放した」という感情的なものではない。かつて「トリニトロン」で世界を席巻し、「TVのソニー」として業界に君臨した時代を知る人には感慨深い出来事だろう。しかし、筆者は悲観ではなく、むしろ“新しいソニーの完成”として受け止めたい。

 この動きは、吉田憲一郎(前社長/現会長)体制から始まった、ソニーグループの事業ポートフォリオ変革を“完成”させる上で、極めて合理的な判断だと思うからだ。ソニーグループは何を目指し、どこで戦うのかを明確にした上での決断である。

 そして、伝統的なソニーブランドの家電を「残して生かす」ために、あえて「抱え方」を変える――今回の再編は、筆者はそう読む。

ソニーとTCL ソニーは、ホームエンタテインメント事業をTCLとの合弁会社に移管する方向で協議している

“どん底”だったソニーグループがはい上がった「2つの改革」

 巨額赤字を計上して瀕死だったソニー(現在のソニーグループ)は、変革期に2つの改革を断行した。前段として、この改革をまず振り返ろう。

改革その1:TV事業の分社化

 2012年にソニーの社長に就任した平井一夫氏が直面したのは、8期連続赤字という“瀕死の”TV事業をどう処遇するか、という課題だ。グローバル市場を見てみると、Samsung Electronics(サムスン電子)やLG Electronicsといった韓国メーカーとの価格競争に敗れ、「規模を追うこと」の限界は明らかだった。

 平井氏の社長就任前に、ソニーはサムスン電子との液晶ディスプレイパネルにおける合弁を解消し、巨額の設備投資競争から距離を置くことで固定費を大幅に削減した。そこに平井氏はさらなる一手として、TV事業の分社化(※1)と、分社したTV事業の徹底的な独立採算制の導入を決めた。そして、高収益のプレミアム製品に経営資源を集中させた。

 こうして「持たざる経営」、すなわちアセットライトに転換したTV事業は、ようやく黒字化を達成し、どん底の状態から「攻めの経営」が行えるところまで復活させた。これが平井改革の本質だ。

 TV事業は合理化と高付加価値路線への集中で「延命」されたのである。

(※1)編集注:TV事業を分社した「ソニービジュアルプロダクツ」は、2014年7月に事業を開始した。その後、ソニーは2015年にビデオ&サウンド事業も「ソニービデオ&サウンドプロダクツ」として分社した。そしてソニービジュアルプロダクツは2019年4月、ソニービデオ&サウンドプロダクツを吸収合併し社名(商号)を「ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ」と改めたが、2021年4月にソニーから分社された“新しい”ソニーに吸収された

分社 ソニーは2014年7月、TV事業を「ソニービジュアルプロダクツ」に分社した。ソニービジュアルプロダクツはソニービデオ&サウンドプロダクツを吸収合併し「ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ」と社名を改めたが、2021年4月に“新しい”ソニーに吸収されて消滅した

改革その2:顧客と“つながる”事業への注力

 2019年に吉田憲一郎氏が社長に就任してからのソニーは、さらに“異なる方向”へと舵を切ることになった。自社を「エレクトロニクス製品の中心の会社」ではなく、ソニー自身が「顧客と“つながる”事業に集中する会社」と位置付けたのだ。

 ソニー自身が直接“つながる”顧客とは何(誰)なのか――それを自問自答しながら、発展させていくという変化を意図的かつ着実に推し進めたのが、吉田改革だ。

 2019年度のソニーと2024年度のソニーグループの事業構成を比較すれば、その変化は一目瞭然だ。ゲーム/音楽/映画の3事業がグループ売上の過半を占める規模に成長した一方で、従来の稼ぎ頭であったエレクトロニクス事業の売上比率は明確に低下している。

 これは市場環境に押されての結果ではなく、吉田氏が“意図して”やり遂げた構造転換の結果である。

パーパス 吉田社長(当時)が就任して初めて開催された経営方針説明会の資料。本編の1ページ目に挙げたソニーのパーパス(存在意義)は、ソニー自身の事業ポートフォリオの転換を示唆したものでもある

 今回、子会社であるソニーがTCLと合弁を検討しているのは、平井改革のときのような「事業の“救命”」目的ではない。吉田改革が目指した、ソニー(ソニーグループ)の「持続性/発展性」の基盤作り、そして「新しい事業ポートフォリオへの生まれ変わり」の延長線上にある取り組みだ。

       1|2|3|4|5 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2026年11月07日 更新
  1. メーカー自身がバックドアを仕込み、犯罪集団に“販売” 乗っ取られたTV用端末130万台超、Googleが遮断 日本の警察庁も参加 (2026年11月05日)
  2. Windows PC向けゲームの「ロード待ち」はなぜ起こる? 背景に過去との「互換性」 (2026年11月05日)
  3. 画面は見やすく広告なし! 睡眠モニター機能はどう? Amazonの新型スマートクロック「Echo Time」の使い勝手と気になる点 (2026年11月06日)
  4. 耳をふさがないEDIFIER「Comfo Bass Pro」は朝から夜まで充電不要 1万円強でLDACとDolby Audio対応、在宅勤務の“つけっぱなし”にピッタリ (2026年11月06日)
  5. 手書き文書の文字起こし+会話録音も可能なスマートノート Makuakeで先行販売を開始 (2026年11月05日)
  6. ミュンヘン市はなぜ再びオープンソースソフトウェアへ回帰するのか? 脱Microsoftを巡る欧州の最新事情 (2026年11月04日)
  7. 月1200ドルのAIコストが電気代20ドルで済む? NVIDIA「RTX Spark」搭載PCのデモで見えた“ローカルAI”の実力 (2026年11月04日)
  8. 価格は約9万円に上昇、それでも“買い”か? DJIの360度カメラ「Osmo 360 II」を初代と比べて分かったこと (2026年11月05日)
  9. エイサー、フルHD×2面表示が可能な折りたたみ式15.6型/23.8型デュアルモバイルディスプレイ (2026年11月05日)
  10. アイネックス、デスクトップPCの電源操作を手元で行える有線リモコン (2026年11月05日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー