ソニーとTCLの合弁が意味する「新しいソニー」の完成形――ソニーが“家電企業”の殻を脱いだ日本田雅一のクロスオーバーデジタル(4/5 ページ)

» 2026年02月06日 18時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

「TVS REGZA」という先例はどうだったのか?

 中国企業との合弁でTVブランドを維持する試みには、既に成功例がある。TVS REGZA(旧・東芝映像ソリューション)だ。

 東芝は2016年、自社のTV(映像)事業を子会社の東芝映像ソリューションに承継した。その上で、東芝は2018年、東芝映像ソリューションの株式の95%をHisenseに譲渡した。

 Hisenseは当時、既にグローバルのTV市場において一定のプレゼンスを持っていた。このこともあり、東芝映像ソリューションの譲受に際して、東芝の映像機器ブランド「REGZA(レグザ)」が消滅するのではないかとの危惧の声も少なくなかった。

 しかし、TVS REGZAはHisenseの製造能力とコスト競争力を活用してREGZAブランドを維持し、国内市場で一定の存在感を保っている。東芝時代から受け継がれた映像エンジンの技術は維持され、画質面での評価も高い。

REGZA TVS REGZA(旧・東芝映像ソリューション)は、Hisense傘下に入ってからむしろ元気になった印象もある

 むろん、ソニーとTCLの関係が東芝とハイセンスと同じ軌道をたどるとは限らない。出資比率や経営体制、ブランド戦略の詳細はこれから詰められていく。将来的に出資比率が変化する可能性もあるだろう。

 しかし、TVS REGZAの例を見れば分かる通り、中国との合弁は必ずしもブランドの毀損(きそん)につながるわけではない。PCでいえば、米IBMのPC事業を買収したLenovoが、IBM由来の「ThinkPad」「ThinkCentre」ブランドを維持し続けているのも好例だ。これらの事実は、1つの“参照点”として記憶しておくべきだ。

パーソナル領域で勝つエレクトロニクス

 今回の発表でもう1つ注目すべきは、何が合弁会社に移管され、何がソニーに残るのかという“線引き”だ。

 設立予定の合弁会社への移管対象は、TVとホームオーディオ(サウンドバーやホームシアターシステム)からなるホームエンタテインメント事業に限られる。一方で、ヘッドフォン/イヤフォンやウォークマン(デジタルオーディオプレーヤー)といったパーソナルオーディオ事業は明確に除外され、ソニーに残留する。

 TV市場が低成長に留まる一方、ワイヤレスオーディオ市場は相対的に高い成長が続くと見られている。ソニーはノイズキャンセリングヘッドフォンや完全ワイヤレスイヤフォンにおいて市場をリードしており、この高収益事業を手放す理由はどこにもない。

 収益性の差も歴然としている。TVセットが激しい価格競争で利益率を押し下げられやすいのに対し、プレミアムなパーソナルオーディオは、ブランド力と体験価値を価格に転嫁しやすい。ソニーがここを中核に据えるのは、理にかなっている。

イヤフォン ヘッドフォン/イヤフォンを始めとするパーソナルオーディオ事業はソニーに残る

 「エレクトロニクス」としてのソニーは、パーソナル領域で勝つ。カメラ(αシリーズ)、ヘッドフォン、イヤフォンといった個人の感動体験に直結するデバイスに集中し、コモディティ化した「リビングルームの箱」は、時代の流れに合わせた形で外部パートナーの力を借りる――今回の再編で、この戦略は一層明確になった。

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