さて、平井改革で命を救われたソニーのTV事業だが、なぜ「延命」し続けることが困難になったのか――それを理解するには、ディスプレイ産業で起きた“地殻変動”を直視する必要がある。
現代のTVのコスト構造において、ディスプレイパネルは全体コストの中で最も重い項目の1つだ。特に超大型パネル化が進むプレミアムクラスの製品では、その比率はさらに高くなる。
大型ディスプレイパネルの生産能力において、中国勢の存在感は決定的になりつつある。具体的にいうと、大型液晶パネルではTCL傘下のCSOT(華星光電)と、BOE Technology Group(BOE)の2社が主導権を握りつつある。そのこともあってか、この分野で一定のシェアを持っていたサムスン電子傘下のサムスンディスプレイは2022年までに液晶パネルの生産から撤退し、代わりにQD-OLED(量子ドット有機ELディスプレイ)など次世代パネルの生産に注力するようになった。
この結果、特に大型パネルを搭載するハイエンドTVこそ、価格競争力の差が露骨に現れやすい状態になっている。
ここで重要なのは、中国メーカーが単に「安いパネルを大量生産している」わけではないという点だ。
例えばCSOTが開発した「HVA(High Vertical Alignment)」と自称するVA系液晶パネルは、高コントラストと高速応答を狙ってMini LEDバックライトと組み合わせることで、有機ELディスプレイに近い黒の表現を、比較的低コストで実現したことから評価されている。
かつて「安かろう悪かろう」だった中国製TVは、先端の高画質技術においても世界の最前線に立つに至った。
プレミアムグレードのTVに不可欠な「超大型パネル」「高輝度Mini LEDバックライト」「精密なローカルディミング制御」といった要素の全てにおいて、中国メーカーが技術と量産能力の両面で優位に立つ局面が増えている。いくらソニーの「絵作り」「映像エンジン」「音質」が優れていても、価格競争力がなければ土俵に立つことすら難しい状況なのだ。
TV市場の出荷/販売データは、残酷なまでに現実を示している。調査会社や指標、集計の切り口によって順位は揺れるが、出荷台数ベースで見れば、2024年はTCLや中国Hisense(ハイセンス)がトップグループへ食い込み、LG Electronicsと上位を争う局面が見え始めている。85型や100型といった超大型モデルも、もはや富裕層だけのものではなくなった。
“手の届く価格帯”で勝負するには、特にパネル調達において構造的な競争力が必須なのだ。
TCLの98型4K TV「TCL C7K」は、傘下のCSOTが生産するHVA液晶パネルを採用している。以前なら、100型近辺のTVは100万円超も珍しくなかったところ、本製品は実売で70万円弱とサイズの割に安価な設定となっている
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