―― PXの成果はどうですか。推進役であるグループCIO(最高情報責任者)の玉置肇氏は、2021年7月からの3年間の成果を、100点満点中10点と厳しく自己評価しています。
楠見 玉置が考えていた「3年間でここまで行きたい」という水準からいえば、そう評価するのも無理はないといえます。私は、玉置がやっている方向性や取り組み方は間違っていないと評価していますし、十分に及第点です。
ただ言い方を変えると、これまでにいくつもの会社でDXに取り組み、業界きってのCIOである彼を持ってしても、パナソニックグループのDXには苦労をしているわけです。それは、パナソニックグループそのものが、大きな課題を抱えている証しともいえます。10点と玉置が答えたのは、 「こんなもので終わらせるつもりはない」という意思表明であると思っています。
―― パナソニックグループの「顔」となるのは、白物家電(くらしアプライアンス)事業だといえます。白物家電事業は、経営改革の成果が、ようやく収益につながる段階へと入ってきましたが、まだ手放しで評価できる状態とはいえないと感じます。
楠見 くらしアプライアンス社が、グローバルの競合企業並みに利益を出しているかというと、まだ劣っている状況にあるのは確かです。特に、冷蔵庫や小物調理家電の回復を急がなくてはなりません。日本での競合ブランドを見ると、中国や台湾の資本の企業が増えています。これらの企業が身につけているが、中国で戦えるコスト力であり、それを日本で長年使われてきたブランドとして展開できることです。
パナソニックでは、中国の家電事業をやや独立させる形で、チャイナコストやチャイナスピードを導入し、その成果が出始め、中国におけるシェアが少し上向きになっています。そして、中国で経験を積み、やり方を理解した社員が日本に戻り、中国の家電産業構造の中で構築している原価力や原価の常識を、日本に持ち込むことを狙っています。
ただ、この取り組みスピードが想定よりも上がらなかったこと、商品の原価構成の構築を日本と中国のどちらがやるのかといった役割分担の変化にも取り組む必要があることなど、まだ改善の余地はあります。
また、日本市場において、本当に必要な機能は何かといったことに対しても、もっと踏み込んでいかなくてはならないと考えています。不要な機能が多いことで、コストを上昇させてしまっているという課題もあります。
さらに、白物家電の宣伝を相当絞っていた時期があり、それにより、商品ブランドが弱まってしまったという反省もあります。パナソニックの特徴が打ち出せる商品は、もっと訴求をしていかないといけません。
私が重視しているのは、計画に対する成果ではありません。シェアが前年より上がったのか、製造と販売を連結した時の利益は高まっているのか。事業会社には、そこにしか興味がないと言っています。コミットした計画は実行してもらわないと困りますが、過去よりも競争力が高まっているかどうかという目線で、コミットして欲しいというのが私の希望です。
―― 最後に、20代〜30代のビジネスマンに対して、今、何をすべきかというアドバイスをもらえますか。
楠見 私は、20代や30代の頃は技術の標準化などの仕事に携わっていたこともあり、同業他社の方々と接する機会が比較的多かったんです。話をしてみると、それぞれの企業が持つ風土や価値観、文化があり、さまざまな発見や気づきがありました。
また、積極的に海外に出ていく経験も大切です。私自身は、海外に住んで仕事をしたのは30代後半になってから、英国に赴任したときだったのですが、海外の方々との交流を通じて、今までの環境とは違う体験をし、いろいろな影響を受けました。異文化と接した1つ1つの体験が、自分にとって大きな糧となっています。
仕事の軸を1つ持った上で、他社の方々と交流して意見交換すると、自分の会社の中にはない、ものの考え方に出会うことができます。これからのビジネスマンは、多様な意見を受容することができるキャパシティーを持つことが大事だと思っています。
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