キーワードは「停滞と変化」――2009年のモバイル業界を振り返る(後編):神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
携帯電話の進化はとどまるところを知らない。2009年は、イー・モバイルやUQコミュニケーションズによる“非携帯電話”分野も大きな発展を遂げた。後編では、これら新興キャリアの動向と2010年への期待をまとめる。
2010年に向けた注目と期待
さて、ここからは筆者なりの2010年の「注目と期待」の分野や要素について述べていきたいと思う。
- ドコモ・ソフトバンクの巻き取り市場
まず目先の現実的なものとしては、NTTドコモのムーバとソフトバンクモバイルの2Gサービスの3Gへの移行(巻き取り)需要が、2010年の市場動向で注目になる。いまだに2G端末を利用している層は、通話・メールなど比較的シンプルな携帯電話の使い方をしており、端末価格や利用料金にシビアな目を向けるユーザーが多い。一方で、この巻き取り需要はまだ400万台以上の規模がある。
ドコモとソフトバンクモバイル、そしてメーカー各社は、このケータイ業界の埋蔵金ともいえる2G契約の移行需要を確保すべく、割安な料金プランの投入や移行促進キャンペーンの準備を進めている。しかし筆者は、ここで単純な乗り換えを促すだけでなく、新たなモバイルサービスの需要喚起にも期待している。特におサイフケータイやiコンシェルなどは、こういった実用志向のユーザー層にも訴求できると思う。ドコモとソフトバンクモバイルには、ぜひそういった取り組みにもチャレンジしてもらいたい。
- iPhone市場の拡大と、フォロワー市場の誕生
2010年もiPhoneの勢いは続く。そして、それはおそらく2009年以上のスピードと規模になるだろう。雪だるまが坂道を転がるように、iPhoneとiPhoneの周辺ビジネスは拡大し、それ自体が魅力になって新しいユーザーを惹きつける。その様子は、iモードやiPodの普及拡大期に似た形になるだろう。
そして2010年、もう1つの注目であり筆者の期待でもあるのが、iPhoneのように一般コンシューマー層にも訴求できる新たなスマートフォンの台頭だ。今のところ、そこに近い場所にいるのがソニー・エリクソンの「Xperia X10」であるが、シャープを初めとする日本メーカーのスマートフォンも、うまくいけば新しい市場を作ることができる。これまでの携帯電話と違う新しいユーザー体験を、どれだけ洗練された形で提供できるか。iPhoneに追随する魅力的なスマートフォン市場が登場すれば、それは端末市場の活性化につながり、新時代のコンテンツやサービスが生まれる素地になるだろう。
- 携帯電話UIの抜本的な見直し
iPhone型のスマートフォンに期待する一方で、当面は従来どおりの「携帯電話」がモバイルビジネスの主役であることは確かだ。緊急地震速報やおサイフケータイ、iコンシェルのようなエージェントサービスなど、携帯電話の方がスマートフォンより進んでいる部分も多い。細かな操作性や独自の携帯コンテンツ文化も発展している。
そのような中で、2010年は「携帯電話のUIを抜本的に見直す」必要が出てくると考えている。特に変えなければならないのは、アドレス帳や通話関連機能など、基本的な部分だ。今の携帯電話はこの部分の設計思想が古く、時代の変化についていけていないのだ。iPhoneやXperia X10が、アドレス帳や電話・メール、デスクトップのUIを現代風に作り替え、インターネットサービスとのシームレスな連携を図っているのと対称的である。来年はぜひ、携帯電話の基本UIのモダン化をしてもらたいたいと思う。
- 多様な端末サポートと柔軟性のある料金プラン
2010年以降は、2009年にも増して「非携帯電話」市場の重要性が増すだろう。すでに存在しているノートPCやデジタルフォトフレームはもちろん、Amazonの「Kindle」のような電子ブックリーダー、カーナビゲーション(PND)など多種多様な3G端末の登場が予想される。また、Pocket WiFiが先鞭を付けたように、Wi-Fiルータ機能とWi-Fi経由で、さらに多くのデジタル機器がネットにつながることも考えられるだろう。
こういった非携帯電話市場の拡大は、今後のモバイル市場の成長にとって重要な取り組みになる。そのため各キャリアは、多様な端末をサポートし、それぞれのビジネスに合わせた柔軟性のある料金プランを用意する必要があるだろう。
- 料金・サービスを“分かりやすく”
2009年、携帯電話ユーザーのグループインタビューでよく聞いたのが、「料金やサービスが分かりにくい」という声である。
むろん、携帯電話業界の料金・サービスの複雑さへの不満は昔からあった。しかし新販売モデルの導入以降、年々その不満が高まっており、各種キャンペーンの乱発や100円PCなどのセット商品が増えた昨年から今年にかけては、かつてないほどに料金・サービスの分かりにくさへの不満が高まっていると感じる。ソフトバンクモバイルやイー・モバイルなど新興キャリアも、参入当初は「料金プランをシンプルに」と声高に叫んでいたが、今となっては率先して料金体系を複雑にしてしまっている有様だ。こういった料金・サービスの見通しの悪さ・分かりにくさは、携帯電話ビジネス全体への不信感にもなっているのではないかと感じるのだ。
これは筆者の期待ではあるが、2010年という新たな10年期の始まりにあわせて、キャリア各社には是非とも「料金・サービスの分かりにくさ解消」を真剣に検討してほしいと思う。
さて、いろいろと厳しい意見や要望も述べたが、2010年が「新しい時代の始まり」になるのは間違いない。2009年に蒔かれたさまざまな種が芽吹き、モバイル業界の様相は、次第に、だが確実に変わっていくだろう。停滞の後の変化が、本格化するのだ。
この10年、日本の携帯電話は大きく進化し、人々の生活と社会を一変させた。巨大な市場を作り、急成長したモバイル産業は多くの雇用を生みだした。これほどまでに短期間で進化し、急成長した産業は他になかったであろう。
そして、これからの10年。モバイル業界はさらに進化・成長し、世の中を変えていくことになる。それだけのパワーが、ここには存在する。
未来への期待をもって、2010年を迎えたいと思う。
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