OSとプロダクトのさらなる進化 Appleが創りだすポストPC時代の新基準:神尾寿のMobile+Views(1/4 ページ)
今年で23回目の開催を迎えたAppleの開発者会議「WWDC 2012」が6月11日(現地時間)に開幕した。基調講演では、PCとスマートデバイスの未来を切り開く、さまざまな仕掛けと手がかりが示された。Appleの次の一手、そしてそれがどのように世界を変えるのか、考えてみたい。
Appleにとって、毎年6月に開催する「Apple World Wide Developpers Conference」(WWDC)は大切な場だ。ここに集まった世界中のソフトウェア開発者とメディアに新たなOSや製品を披露し、エコシステム(経済的な生態系)の将来像を指し示す。そして基調講演では、多くの人々にAppleの思い描く未来を語りかける。iPhoneやiPadの世界的な成功以降、Appleが名実ともにIT産業のリーダーになってからは、このWWDCが“コンピューターとインターネットの今と未来”を見る上でも重要なものになった。
そして2012年6月11日(現地時間)。Apple World Wide Developpers Conference 2012の幕が上がった。今年は2011年に引き続き、Mac用の「OS X」とiPhone/iPad用の「iOS」の両方がメジャーバージョンアップ。さらにハードウェアとして、「MacBook Pro」の新たなラインアップが紹介された。その内容は2時間を超える基調講演でも足りないほどであり、ITの世界を力強く牽引するAppleの今が凝縮されたものであった。
筆者はこのWWDC 2012の基調講演を、直接取材する機会を得た。ポストPC時代を創り出すAppleの次の一手はどのようなものか。そして、それがユーザーにとってどのような魅力となり、世界をどのように変えていくのか。それを考えてみたい。
拡大し、充実するAppleのエコシステム
約5300人。
毎年、WWDCが開催されるサンフランシスコのモスコーン・センターの大ホールには、多くの開発者とメディア関係者が詰めかけ、異様な熱気にあふれていた。会場は満員御礼。前方の席を確保した開発者は、前日から会場前に並んでいたという。
その熱気の中で、壇上に上がったのはCEO(最高経営責任者)のティム・クック氏。昨年、他界したスティーブ・ジョブズ氏の後を継ぐ新CEOの登壇に、会場から割れんばかりの拍手と喝采がわきあがったのは言うまでもない。
クック氏はまず、第23回となる今回のWWDCの参加チケットが、販売開始からわずか1時間43分で売り切れになってしまったこと、世界の60カ国から参加者が集まるグローバルな開発者イベントになっていることをアピール。その後、アプリを中心とするAppleのエコシステム (経済的な生態系)がどこまで拡大しているか、その最新状況を語った。
それによると、App Storeのアカウント数は約4億。登録アプリは約65万本に達しており、しかもそのうちの22万5000本がiPadに最適化されたものになっている。アプリの総ダウンロード数は300億回を超えており、開発者に支払われたコンテンツ料は50億ドル(約3972億円)を突破したという。
AppleのApp Storeのライバルとなるのは、GoogleのAndroidスマートフォン向け公式ストア「Google Play」だが、こちらは2011年12月に総ダウンロード数が100億回を超えた段階であり、有料アプリの市場規模についてGoogleは公式発表していない。しかし、2011年11月に米投資銀行Piper Jaffrayが発表した推計によると、Androidアプリの売り上げはiOS向けのわずか7%に過ぎない。今回のWWDC 2012で明かされた最新の数字と比べても、AppleのApp Storeがアプリ市場として健全な成長を続けており、Google Playとの差が開いていることが分かるだろう。有料アプリの市場がきちんと成立していることは、ユーザーにとっても“良質で魅力的なアプリが多数集まる”という点で大きなメリットである。
ノートPCの“スタンダード”を押し上げる新世代MacBook Pro
ここ数年、AppleのWWDCキーノートでは複数の幹部が交代しながらプレゼンテーションを行う。今年、ティム・クック氏の概況説明の後にバトンタッチで登壇したのは、同社ワールドワイドマーケティング シニア・バイス・プレジデントのフィル・シラー氏だった。
シラー氏が担当したのは、MacBookのラインアップ刷新について。まずはMacBook Airから、CPUをインテルの第3世代CPU(通称Ivy Bridge)に換装し、USB 3.0を実装、記録メディアに最大512Gバイトのフラッシュストレージ(SSD)が選択可能になることを発表。続いてMacBook Proの説明に入り、ここでもIvy BridgeへのCPU換装を中心に、基本性能のブラッシュアップを行うことを告げた。
ここまで淡々と進んだMacBookのラインアップの説明だが、プレゼンテーションの画面が一転し、暗幕のかかった“もう一台”の姿が映し出されると会場からどよめきが漏れた。そして、掲げられた「Next Generation MacBook Pro」の文字。会場からは喝采が上がる。
ここで発表されたのが、新世代のMacBook Proだ。既報のとおり、MacBook Airと同じく光学ドライブを省いたスリムボディに、Ivy Bridge世代のクアッドコアCore i7 CPUを搭載。記録メディアはフラッシュストレージとなり、最大768Gバイトまで選択できる。USB 3.0と高性能なグラフィックス機能(GeForce GT 650M)なども内蔵され、名実ともに高性能でスタイリッシュなノートPCに仕上がっている。
しかし、他のApple製品がそうであるように、新世代MacBook Proにおいても重要なのは単なる“スペックの数字”の部分ではない。今回、もっとも注目すべき部分は、同機がMac製品で初めて「Retina(網膜)ディスプレイ」を搭載したことだ。具体的には、2880×1800ドットの表示(518万4000ドット/220ppi)が可能になり、ドット数は従来の15.4型ワイド(1440×900ドット)に比べて約4倍に拡大した。これにより新世代MacBook Proは、iPhone 4/4Sや新しいiPadのように、緻密で高品位な表示に対応した。
シラー氏はこの“Retinaディスプレイ化”に合わせて、Mac用のOS Xの各アプリの利用体験も大幅に向上すると強調。Webブラウザの「Safari」や「メール」、写真編集・管理ソフト「iPhoto」、動画編集ソフト「iMovie」などを引き合いに出しながら、その効果の高さをアピールした。
Retinaディスプレイが、あらゆる場面でユーザー体験のレベルを押し上げることは、iPhone 4/4SやiPadのユーザーに対しては言うまでもないだろう。Retinaというハードウェアの革新に対して、OSやアプリなど各種ソフトウェアが最適化された時に起こる“美しさと快適さの革命”はすさまじく、一度体験したらRetina以前には後戻りできない。それはiPhoneとiPadが、新たな基準(スタンダード)となり、それぞれの分野を席巻したことからも分かるだろう。
そして今回、このRetina化の波がMacBook Proにも押し寄せた。今回はハンズオン(実機体験)がなく、シラー氏のプレゼンテーションと展示機が見られるだけだったが、Retina化のインパクトは一目瞭然であった。新世代のMacBook ProがノートPCの常識を塗り替えて、この分野の新基準になることは間違いない。
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