業務用の空調選び、電気かガスか省エネ機器

個別空調には大きく2つの方式がある。電気空調とガス空調だ。空調を実現する基本的な仕組みは同じだが、それぞれ適した使用条件が異なる。

» 2013年05月02日 11時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 オフィスや店舗の空調を選ぶ際、まず室内の面積や吹き出し口の数、方向に目が向きがちだ。60m2用で、吹き出し口が2方向という具合だ。

 だが、空調機器の仕様条件にも注意を払う必要がある。使用条件に適した方式を選ばないと、運転費用がかさんでしまうからだ。

方式ごとに異なるメリット

 業務用空調機は規模によって大きく2つに分かれる。個別空調とセントラル空調だ。個別空調は古くから使われてきた「パッケージエアコン(電気空調)」と1987年に登場した「ガス空調(GHP)」に分かれる。セントラル空調はビル1棟を丸ごとまかなう能力があり、ターボ冷凍機や吸収式冷凍機などの方式がある。

 以下では個別空調について触れよう。電気空調もガス空調も冷媒を利用し、大気から熱をくみ出すことで機器の効率を高めている。コンプレッサーを内蔵したヒートポンプ(HP)を使って、室外の大気の熱量をくみ出す暖房と、室内の熱を大気に逃がす冷房を実現している。

 電気空調とガス空調の仕組み上の違いは、どのような動力でコンプレッサーを動かすかということだ。これがそれぞれの空調の特徴につながる。

 電気空調はモーターを使ってコンプレッサーを動かす。このため、室外機が内蔵する機構はガス式よりも単純になる。導入費用が比較的少なくて済む他、総運用時間が長い場合には、メンテナンスコストが一般に安く付く。

 電気料金の割引が適用される時間帯にもっぱら運転することができれば、運転費用を下げることも可能だ。電気空調しか選択肢がない用途もある。必要な空調出力が小さい場合だ。これは家庭用の空調のほとんどが電気空調であることからも分かる。なお、電気空調は全てを電力でまかなうため、容量に余裕がない場合は電気設備を増設しなければならない。

 ガス空調のメリットは、電力をほとんど使わないことだ。電力にあまり依存しないため、停電時に自立運転が可能な製品も販売されている。

 例えば、ガス3社(大阪ガス、東京ガス、東邦ガス)とパナソニックが開発し、2012年に発表した「GHPエクセルプラス」は、停電時にガスエンジン起動用の電源となる蓄電池を内蔵する(図1)。同製品はガスエンジンに接続された発電機の容量が大きく、自立運転時には出力が3kWであり、室外機で使用する電力以外に、0.7kWを外部の機器が利用できる。

図1 停電時の自立運転の仕組み。出典:パナソニック

 ガス空調は暖房に強い。電気空調にせよ、ガス空調にせよ、暖房時には室外機の温度が下がる。このため、室外機に霜が付く。霜は熱の取り込みの邪魔になるため、取り除かなければならない。ガス空調ではコンプレッサーを駆動するガスエンジンの廃熱を霜取りに利用できるため、霜取り運転が不要になる。

 電気空調とガス空調、どちらの運転費用が長期的に安くなるのか、これは予測が難しい。電力会社の赤字傾向がこのまま長く続けば、電気料金がさらに高くなる可能性もある。こうなると電気空調は不利になる。

 ガスの米国価格は、安定して低下している。しかし、欧州は右肩上がりだ。日本のガス調達先が今後どうなるかによって、ガス空調が有利になるかどうかが変わってくる。例えば、市場調査会社である富士経済は2012年7月、ガス空調について「2014年以降燃料費や維持管理コストの負担の大きさから市場は縮小し、2020年には震災以前の水準に戻る」という予測を発表している。

大気でなく地中から熱を得る

 どちらの空調機も大気から熱を得る(熱を逃がす)ことで、空調の効率を高めている。例えば、暖房の場合、電気ストーブのように電熱線に電流を通じて温風を得るよりも、電気暖房を使って大気から熱をくみ出す方が、効率が数倍高くなる。

 ただし、大気の温度には季節変動があり、冷房を使いたい季節には気温が高く、暖房を使いたい季節には低くなる。これはヒートポンプには不利な条件だ。季節変動が起きにくい*1)地中熱を利用できればさらに効率を高めることができるはずだ。地中熱を利用した空調機は家庭用市場で先行しており、業務用に適用しようという動きもある。

*1) 深さ10m程度で年間を通じた地温の温度変化がなくなる。ある地点の地温はその地点の年平均気温とほぼ等しい。

 例えば、JFEエンジニアリングは2011年に地中熱を一部利用した業務用ヒートポンプ空調機を製品化している(図2)。従来の空調機に対して、消費電力を30〜40%低減できるという。

図2 地中熱空調システム。出典:JFEエンジニアリング

COPやAFPという値は何を表す

 空調機の性能を表す指標は複数ある。古くから使われてきたのが、成績係数(COP:Coefficient Of Performance)だ。消費電力1kW当たりの冷暖房能力を表している*2)。COP値が大きいほど、空調に必要な消費エネルギーが小さくなる。つまり、運転費用を抑えることができる。

*2) カタログなどにある冷房能力(kW)や暖房能力を消費電力(kW)で割ることにより手計算できる。COP=3.0の場合、消費電力1kWあたり、3kWの熱(冷熱)を作り出すという意味になる。

 COPは分かりやすい値だが、実使用状態を反映していないという批判があった。例えば、冷房時のCOPと暖房時のCOPは通常、同一の値にはならない。さらに、COPを計算する場合、定格出力の状態で、外気温度も変わらないという仮定が付く。だが、実使用状態では、定格出力かつ温度が一定ということはあり得ない。

 そこで、2009年には、通年エネルギー消費効率(APF:Annual Performance Factor)という新しい基準が業務用空調機へ全面的に導入されている。APFは1年を通じた空調能力を見る指標だ。ある運転条件のもとで、冷房と暖房を使ったとき、消費エネルギー1kW当たりの空調能力を表す*3)。値が大きいほど空調性能が高いことを示す。

*3) 冷房能力と暖房能力を足し合わせ、それを、冷房時の消費電力と暖房時の消費電力の合計で割ることで計算する。

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