排気ガスで400W発電できる、まずはバイクの補助電源から蓄電・発電機器(2/2 ページ)

» 2013年05月09日 11時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]
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製品化に必要な条件とは

 発電機を安価にするには、高価な原材料を使わないことが前提となる。SOFCを高性能化するにはレアアース(希土類)を使えば良い。だが、コスト条件を満たさない。そこで、性能をあまり落とさないようにしながら安価な原料で代替した。具体的には、チューブの外周に当たる部分(空気極)にレアアースのランタン(La)を使わず、代わりに安価なバリウム(Ba)を用いた。

 SOFCをチューブ型にしたのはなぜだろうか。SOFCの材料は金属や有機物ではなく、金属酸化物、いわば焼き物だ。チューブ型に加工することは本来難しい。

 理由は2つある。まず、オートバイなどでSOFCを利用すると、起動、運転、停止のサイクルが早く、温度が急激に変化しやすい。このような条件では熱衝撃(応力)を受けにくいチューブ型、それも直径の小さなチューブが有利だ。アツミテックが開発したSOFCチューブは直径が2.7mmと細い。

 もう1つは、チューブ型を採ると、チューブ自体の製造コストは高くなるが、電極からの取り出し部品やガス漏れ(シール)用の部材などが不要になり部品点数が減ることだ。一般に部品点数を減らすことは低コスト化に直結する*4)

*4) 今回の発電システムは320本のチューブを束ねて使っている。なお、チューブ型以外の選択肢もある。平板型だ。実はアツミテックは平板型の開発も並行して進めている。「平板型はチューブ型とは逆にSOFCの製造コストが低い。製造工程もシンプルだ。平板型を採用した場合でもパッケージ性能や体積は同等になることを把握している。チューブ型のメリットは確かに大きいが、実際に量産、改良を繰り返したときにどちらが有利になるかは分からない部分が残っている」(アツミテック)。

一部が融合した構造を開発

 低コスト材料を利用したチューブ型SOFCが必要だということは分かった。もう1つの技術、SOFCと構造・材料の一部を共有する熱電変換素子を開発した理由は何だろうか。

 熱電変換は、温度差が大きく、温度差の生じている距離が短いほど効率が高くなる。つまり高温の排ガスと低温の空気が密着しているような構造が好ましい。さらにSOFCが排ガスを利用して発電すると、電力として取り出せなかったエネルギーが熱として放出される。発電時は排ガスよりもSOFCの方が高温になる。

 このことから、SOFCチューブの表面に密着した形で熱電変換素子を配置すればよいことが分かる。最も密着した構造とは、SOFCの一部が熱電変換素子として働くものだ。後から熱電変換素子を上乗せするよりも効率が高くなる*5)

*5) SOFCが動作するような高温では、異種材料を上乗せすると、原料物質が移動して効率の低下を引き起こす現象が起きる。

 ほぼ全ての熱電変換素子は2種類の半導体を交互につなげることで機能する。このうち1種類の半導体をSOFCの電極の1つ(空気極)と共用する構造(シナジーセル)を開発した(図3)*6)

*6) 空気極にはバリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、コバルト(Co)、鉄(Fe)を含む金属酸化物(BSCF)を使用。熱電変換素子のp型素子にはBSCFを、n型素子にはイットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)を含む酸化物を利用した。つまりBSCFが共用されている。

図3 チューブ型SOFCと熱電変換素子の組み合わせ構造。出典:JST

 このような構造を採ることで、燃焼前のガソリン燃料のもっていたエネルギーのうち、2.5%を回収できた。体積0.316cm3のセルのSOFCから0.431W、熱電変換素子から0.0003Wの電力を得た。「発電機の体積を小さくする技術開発を優先したため、熱電変換から得られる電力がまだ少ない。今後は商品化をめざし、素子を増やすなど、この部分を改善していく」(アツミテック)。

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