キーワード解説「燃料電池」キーワード解説

都市ガスやプロパンガスを利用して発電する機器の中でも、水素などの物質の化学反応によって電気を得る機器が「燃料電池」だ。

» 2012年10月12日 13時00分 公開
[笹田仁,スマートジャパン]

 「燃料電池」とは化学反応によって電力を得る装置。一般に水素(H2)と酸素(O2)を結合させて水(H2O)得る化学反応の過程で電力を得る。

 すでに実用になっている燃料電池としては固体高分子形、リン酸形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形の4種類が挙げられる。発電能力は固体酸化物形が最も大きく、溶融炭酸塩形、リン酸形の順で発電能力は小さくなっていき、固体高分子形は最も発電能力が小さい。

 発電能力の大きいリン酸形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形は、工場や発電所などに設置して大きな電力を得るために利用することを想定している。一方発電能力が小さい固体高分子形は本体を小さくできるという特長があり、家庭用燃料電池(エネファーム)や燃料電池車(FCV)といった用途で一部実用化が進んでいる。

 ここから先は家庭用燃料電池を例に、発電する仕組みを簡単に説明する。家庭用燃料電池は、都市ガスやプロパンガスから水素を取り出して利用する。都市ガスやプロパンガスには、ガス漏れを人間に知らせるために匂いを付けてある。その成分である硫黄は燃料電池を劣化させるため、水素を取り出す前に硫黄を除去する必要がある。

 都市ガスやプロパンガスの主成分は「炭化水素」と呼ぶ水素原子と炭素原子からなる化合物である。ここから水素原子を取り出すには、1000℃程度の高温下で炭化水素と水蒸気を反応させる(水蒸気改質)。これで炭化水素から水素原子と一酸化炭素を得られる。一酸化炭素も燃料電池を劣化させるため、適切に処理する必要がある。

 水蒸気改質で水素を得たら、燃料電池の中心部である燃料電池セルに水素を送る。ここで水の電気分解と反対の反応を発生させて、電力を得る。燃料電池セルは電解質という層をはさんで両側に燃料層と空気層があり、燃料層と空気層が電解質と接する部分には化学反応を促進させる触媒がある。

 燃料層から水素を送り込むと触媒に触れて水素イオンと電子に分解する。電子は燃料層と空気層を外側で接続する導線に流れる。水素イオンは電解質を通り抜けて空気層に移動する。空気層で水素イオンと酸素と電子が反応して水ができる。水素イオンから分離した電子が流れる導線で直流の電力を得られる。

 家庭用燃料電池で使用する固体高分子形の燃料電池は、電力を得る反応を発生させるときに80℃〜100℃の熱を発する。家庭用燃料電池では、この熱を利用して水を加熱し、給湯や床暖房に利用している。

 固体高分子形に限らず、先に挙げたほかの種類の燃料電池も発電反応時に熱を発する。リン酸形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形の順にその温度は高くなり、固体酸化物形の燃料電池は1000℃もの熱を発することがある。どの方式の燃料電池も、家庭用燃料電池のように発電時に発する熱を利用して、エネルギーを効率良く利用することができる。

 電力コストが上昇している昨今、家庭用燃料電池は光熱費を下げるために有用であることから注目を浴びている。しかし、本体価格が200万円程度とかなり高いという課題がある。本体価格が高くなる一因として、触媒に白金(Pt)を使用しているという点が挙げられる。白金は高価であるため、それに代わる廉価な触媒を開発すべく各メーカーは研究を続けている。

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