空調効率を高める「地中熱」キーワード解説

東京スカイツリーも採用した地中熱。地中熱を利用すると空調の電気料金を抑えることが可能だ。どのような仕組みで動くのか、課題は何か。

» 2013年06月21日 15時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 空調(エアコン)は、空気(外気)の持つ熱を利用して、室内を暖めたり、冷やしたりする装置だ。室内よりも高温の外気の熱を使ったとしても冷房が可能だ。このため、夏でも冷房を使うことができる。だが、室内よりも温度の低い物質を利用できればより効率のよい冷房が可能になる。

 これが「地中熱」を利用するメリットだ。地下の年間の温度変化は関東地方の場合、地下5mで3℃程度、地下10mの地点では温度変化はほとんどなくなる。その地点の年平均気温と同じ地温が一年中続く。東京であれば16.3℃、大阪なら16.9℃だ。

 地中熱を利用するための大まかな仕組みは、エアコンと変わらない。エアコンでは室内機と室外機の間で冷媒を循環させる。循環の途中に蒸発器と凝縮器、圧縮機が組み込まれており、全体がヒートポンプとして機能する。

 地中熱利用では、地下に向かって例えばUの字型の管を配置して、地上との間で水や不凍液などの循環流体を通す。これ以外はエアコンと同じだ。室内機や床暖房と組み合わせて冷房や暖房として利用できる。

 地中熱をどうやって取り出すのだろうか。「ボアホール方式」と呼ばれる戸建て住宅に向く工法では、長さ100m、直径18cm程度の円筒状の垂直の筒に、U字管2本を通す(図1)。集合住宅やビルでは地下に必ず基礎杭を打ち込む。「基礎杭方式」ではこの杭を利用し、杭の中に熱交換用のチューブを入れ込む。長さは5〜30mだ。これで地中熱が利用できるようになる。

図1 地中熱利用のイメージ。ボアホール方式のもの。

空調費用を1/3程度に抑えられる

 地中熱ヒートポンプにはどの程度の能力があるのだろうか。地中熱利用促進協会によれば、ボアホール方式を採り、100mの管をU字管を2本通すことができれば戸建て住宅の空調に十分な能力が得られるという。

 同協会によれば、地中熱利用ヒートポンプ(エアコン)を全国の10%の家庭が導入すると、電気式エアコンの消費電力の節減に役立ち、年間14億5000万kWhの電力を削減できるという。

 ところが現状、国内では地中熱の利用がほとんど進んでいない。導入量では、米国や中国、北欧諸国が目立つ。米国の累計導入量が世界でも最も多く1万2000MWtを上回る。これは家庭用100万台に相当する規模だ。中国は5000MWt、スウェーデンが4000MWt強だ。一方、日本では44MWt。これは米国の0.3%程度の微々たる導入量だ。

 日本で普及が進まない最大の要因は施工費用、それも地中に向けて穴を掘るボーリング費用にある。地中熱利用促進協会によれば、ボーリング料金は1m当たり1〜1.5万円。深さ100mまで掘り下げることを考慮すると、ボアホール方式の場合、投資資金の回収に30〜50年を要する。これは長すぎる。基礎杭方式は、必ず打ち込む杭を使うため、投資回収期間が短くなり7〜20年だ。

 自然エネルギーとして全国どこでも24時間365日利用できる地中熱。太陽光や風力と異なり、電力を生み出す用途には向いていないため、固定価格買取制度(FIT)の対象にはなっていない。しかし、消費電力を確実に減らす効果がある。高いネガワット効果を持っている。

 地中熱には国の補助金が2つ、地方自治体の補助金が北国を中心に8つある。「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業」など直接地中熱をうたっていない補助金の対象にもなっている。しかし、地中熱の年間導入例が100件程度であることを考えると、補助金以外の政策支援が必要なのではないだろうか。

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