「地獄」を借り受けて温泉力発電、別府で100kW自然エネルギー

温泉の源泉をそのまま使いながら発電を可能にする仕組みがある。バイナリー発電だ。24時間365日発電でき、設備利用率が高い。しかし、導入に当たっては高額な発電機を温泉側が購入する必要があった。大分県別府市での取り組みは、「源泉貸し」によって、初期費用を0にしようとするものだ。

» 2013年09月02日 18時30分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]
図1 別府市内の温泉力発電予定地

 新しい井戸を掘削しなくても、既存の源泉を使って発電できるバイナリー発電(関連記事)。地熱発電のような大出力は期待できないが、地面を掘り返すことなく、機器を後付けして発電できるため、導入のハードルが低い。

 大分県別府市で始まるバイナリー発電「温泉力発電」の取り組みには、もう1つ事業上の工夫がある。太陽光発電の屋根貸しにも似た、「源泉貸し」だ。

 温泉にバイナリー発電を導入する場合、これまでは源泉所有者など温泉関係者側でバイナリー発電機を購入し、売電するという形を採っている。しかし、バイナリー発電機は小出力で最も安価なものでも設置工事と併せて約1000万円の出費が必要だ。小規模な源泉では導入しにくい。

 源泉所有者のユーネットと、発電事業者のベターワールドが合意した今回の事業では、ユーネットが源泉を賃貸し賃料を得る。ベターワールドは機器に投資し、固定価格買取制度(FIT)によって、九州電力に売電し、収益を得る。「源泉所有者以外の第三者が温泉の源泉を賃貸し発電することは国内外で初めての事例だ」(ベターワールド)。

別府の金龍地獄に導入

 バイナリー発電を開始するのは別府市にある「金龍地獄」(558坪)だ。別府では源泉ごとの特徴を取り上げて「××地獄」という名前を付けており、大小10数カ所の地獄がある。入浴するというよりも観光名所として楽しむためのものだ。

 金龍地獄の温泉脈は地下約300mにあり、泉温は98〜99度である。現在、泉温や出力を基に特性の合ったバイナリー発電機を選定中であり、2013年度中に発電を開始する予定だ。ベターワールドは設備稼働後、15年間の運営とメンテナンスも担う。

 金龍地獄を使った発電をバイナリー発電ではなく、温泉力発電と呼ぶのはなぜだろうか。「地下から熱水の他に蒸気が自噴している。そこでバイナリー発電機の他に、補助的に圧力蒸気を使って小型タービンを回し発電することにした。これを温泉力発電と呼ぶ」(ベターワールド)。

 なお、金龍地獄は2009年から休業している。源泉所有者のユーネットはこの他にひょうたん温泉を経営しているものの、金龍地獄の再開は難しいのだという。「当社は金龍地獄を利用した観光事業も企画している。100%子会社の日本スノーマネジメントが新潟県の苗場で観光事業を営んでいるため、このノウハウを生かしたい」(ベターワールド)。

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