IHIは70〜95度の温水を使って発電できるパッケージ化されたバイナリー発電機を製品化した。競合メーカーの製品よりも小型であり、食品工場や化学系工場、製紙工場などに設置しやすいという。
70度以上の温水――温泉の源泉であれば追い炊きも必要なく使いやすい。だが、工場の工程から生まれる少量の温水は使いにくい。100度よりも低いため、そのままでは蒸気タービンを回すことはできず、何かの温度を高める、保持するためのお湯としてしか利用できないからだ。
70〜150度前の「温水」を利用して発電する技術として最も有望なのがバイナリー発電だ。温水の熱を、沸点の低い作動媒体に与えて蒸発させ、この蒸気で蒸気タービンを回して発電する。その後、作動媒体を水で冷やして液化するというサイクルを繰り返すことで発電する。作動媒体はパイプの中に封入されているため、外部には漏れてこない。
国内の状況は、10社程度が研究開発を進めており、数社が市場投入を開始したという段階だ。比較的大出力の製品が先行し、その後を小出力のタイプが追う形になっている*1)。
*1) 作動媒体に炭化水素系有機物を使うオーガニックランキンサイクル方式のバイナリー発電機が多いものの、それ以外の方式もわずかに見られる。
国内で製品化が始まったのは2010年だ。富士電機の製品は最大出力が1637kW(以下送電端)と高い。ただし、100〜135度の蒸気が必要であり、工場向けというより、従来の地熱発電が利用できなかった熱を回収するためのシステムだ。同年川崎重工は最大出力250kWのシステムを発売、こちらは80〜120度の熱源であれば利用できるため、地熱以外にも適用しやすい。次いで、2011年には神戸製鋼所が出力60kWのシステムを製品化。これは70〜95度の温水を利用するため、より用途が広くなる。この他、米国を中心に海外で出力125kWのシステムを販売している米Access Energyが2013年に国内市場に参入している。
2013年度中に製品化を予定しているメーカーもある。アルバック理工は出力3kWのシステムを、アネスト岩田は出力5.5kWのシステムの実証実験を続けている。
なぜ、このようなさまざまな製品が登場するのか。それは、バイナリー発電の出力を決める条件が多岐にわたるからだ。まずは温水の温度だ。工場によって、得られる温水の温度は決まっており、導入するシステムに合わせて変更することはできない。次に時間当たりに得られる温水の量だ。温水が多ければ出力が大きくなる。見逃しやすいのが冷却用の水の温度と量だ。先ほど紹介した作動媒体を液化するためには低温の水が必要だ。これら条件のうち、どこを狙うかによって、バイナリー発電機に利用する作動媒体の種類やタービンの技術などが変わってくる。
IHIは70〜95度の温水を狙ったバイナリー発電機「ヒートリカバリー HRシリーズ」を開発、2013年8月から販売を開始する(図1)。95度の温水を1時間当たり28m3投入し、温度30度の冷却水を1時間当たり40m3使用したとき、最大出力20kWが得られる。「他社製品は冷却水に20度の水を使うが、当社の製品は30度に設定したため、一般的な工場の冷却水として入手しやすく、より広い用途に使いやすい」(IHI)。販売対象は食品工場、化学系工場、製紙工場である。市場販売価格は1000万円前後を予定する。
作動媒体にはフッ素系不活性ガス(HFC-245fa)を使用した。研究開発段階ではより性能が高くなる作動媒体も使用していたが、電気事業法の規制に適合させるため、HFC-245faを利用した。オゾン層破壊係数が0という特徴がある。
製品の寸法は幅が約2m、奥行きが約1.4m、高さが約1.6mであり、工場に設置する発電機としては小型だ。重量は約1.9トン。発電機としてパッケージ化されており、設置時には付加部品が必要ない。温水出入り口と冷却水出入り口、電源系統を接続すれば動作する。温水と冷却水を通じたのち、タッチパネルから起動を指示するだけで発電が始まる手軽な機器だ。
独立電源として使えるだけでなく、商用電源と接続して利用しやすいよう、標準で系統連系機能を備えている。タービン発電機には同社の産業用コンプレッサ技術を適用した(図2)。
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