発電所で作られた電力はネットワークを経由して全国の企業や家庭に届けられる。電話や郵便のネットワークにも似ているが、大きく違うのは出し手の発電所の数が少なくて、受け手の利用者の数が多いことだ。そのために電力特有の「送電」と「配電」の仕組みが作られている。
日本の電力会社10社の発電所を合計すると1300以上もあって、意外に多いように思える(図1)。実はそのうちの85%は水力発電所で、1カ所あたりの発電量は小さく、合計しても全体の電力供給量の2割にも満たない。現在の主力の電力源は火力発電所だ。供給量の6割をカバーしているが、発電所の数は159しかない。
一方、電力を利用する企業や家庭は全国で8000万を超える。各地の発電所で作られる電力を膨大な数の利用者に送り届けることが電力ネットワークの役割である。そのために緻密な構造の「送電」と「配電」の仕組みが日本全体に張りめぐらされている。
電力は基本的に電線を通して送られるが、その間に少しずつ量が減ってしまう。電線によって電力の一部が消費されてしまうからだ。ただし電圧が高いほど、電線で消費する電力が少なくて済むという特性がある。このため、できるだけ高い電圧の状態で電力を送ることが望ましい。
発電所で作られる電力は数十万ボルトの大きさの電圧で送り出される。それを段階的に低い電圧に下げていって、最終的に100ボルトの状態で家庭まで届けるのが日本の電力ネットワークである(図2)。
発電所から家庭までの間に、5段階にわたって電圧を下げながら、利用者が必要とする大きさに変えて配分する。この過程で電圧を下げる役割を担うのが変電所で、全国に6000以上もある。変電所で電圧を変換しやすくするために、通常は発電所から交流の電力が送り出されて、企業や家庭のコンセントまで交流で届けられる。
このうち発電所から変電所までの基幹部分が送電ネットワークで、さらに変電所から企業や家庭などに電力を届ける部分が配電ネットワークである。日本では電力会社が発電・送配電・小売をすべて担っている。そのために電力供給体制が硬直的になり、電気料金の上昇などにつながっているとの指摘がある。
最近になって電力会社の発電・送配電・小売の3つの事業を分離する政策がようやく進み始めた(図3)。いわゆる「発送電分離」である。このところ太陽光発電に取り組む企業や家庭が急速に増えていることもあって、大小さまざまな発電設備が次々に誕生している。その点でも送配電ネットワークが電力会社から分離・開放されて、数多くの発電設備とつながりやすくなる意味は大きい。
かつての電電公社(現在のNTT)が独占していた国内の電話網を開放したことによって、日本の通信市場は一気に活性化した。料金が安くなり、サービスも充実した。同様のことが電力市場に起こる期待は大きい。実現までには課題が残っているものの、国を挙げて早期に発送電分離を実現する必要がある。
連載第1回:電力を表す基本単位「kW」と「kWh」
連載第2回:世界中で使い分けている「直流」と「交流」
連載第3回:電力の供給源は「発電」と「蓄電」
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