九州の新しい発電拠点へ、2020年までに再生可能エネルギーを3倍以上エネルギー列島2013年版(40)福岡

福岡県は2020年に向けて大規模な発電設備の導入計画を急ピッチで進めている。北九州市に太陽光・風力・火力発電所を相次いで新設する一方、有明海の沿岸部ではメガソーラーの建設が目白押しの状態だ。県が運営する治水用のダムに小水力発電設備を導入するプロジェクトも展開する。

» 2014年01月07日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 九州の人口と経済の約4割を担う福岡県だが、再生可能エネルギーの導入量は意外なほど少ない。大分・熊本・鹿児島などと比べると半分以下の規模である。ところが2012年7月に固定価格買取制度が始まって以降、全国で最も多くの発電設備が福岡県内で運転を開始している。県が設定した導入目標を大幅に上回るペースで拡大中だ。

 当初の目標は2020年度までに、2010年度の3倍にあたる90万kWへ増加させる方針だった。それが早くも2012年度の段階で47万kWまで伸びて、目標を前倒しで達成することが確実な状況になっている(図1)。

図1 福岡県の再生可能エネルギー導入目標。出典:福岡県企画・地域振興部

 特に急速に拡大しているのが太陽光発電だ。買取制度が始まってからの1年間でメガソーラーが40カ所も稼働して、発電規模は8万kWに達した(図2)。件数・規模ともに全国で第1位である。さらに稼働予定の設備を含めると40万kWになり、これを加えただけで2020年度の目標に届く。

図2 福岡県内のメガソーラー稼働状況。出典:福岡県企画・地域振興部

 すでに発電を開始したメガソーラーの中で最大の規模は、みやま市で2013年3月に稼働した「みやま合同発電所」の23MW(メガワット=1000kW)である(図3)。有明海に面した33万平方メートルの広大な土地に、7万9000枚の太陽光パネルを設置した。年間の発電量は2450万kWhにのぼり、一般家庭で約7000世帯分の電力を供給することができる。

図3 「みやま合同発電所」の全景。出典:芝浦グループホールディングス

 みやま市を含めて福岡県の南西部は日照時間が長く、特に沿岸部では月間に180時間を超える場所もある。全国平均は160時間程度で、1割以上も上回る。その分だけ発電量は多くなる。みやま市の南にある大牟田市でも、大規模なメガソーラーの建設が続々と始まっている。

 大牟田市には旧・三池炭鉱の施設の跡地が数多く残っていて、新たに再生可能エネルギーの拠点に生まれ変わりつつある。ソフトバンクグループのSBエナジーが20MWのメガソーラーを建設するほか、三井不動産が6MWの設備を建設中だ。いずれも2015年3月までに稼働する予定である。

 その一方で対極に位置する北東部の北九州市でも発電所の建設プロジェクトが相次いで動き出した。北九州市では2013年度から「地域エネルギー拠点化推進事業」に着手して、火力発電所と洋上風力発電所を3年後の2016年度に稼働させる計画を進めている(図4)。

図4 「北九州市地域エネルギー拠点化推進事業」の展開計画(画像をクリックすると拡大)。出典:北九州市環境局

 北側の日本海に面してLNG(液化天然ガス)や石炭の輸入基地がある「響灘(ひびきなだ)臨海工業団地」の立地を生かして、エネルギーの一大拠点を形成する試みだ。火力発電所は30万kW級を2016年度までに建設するのに続いて、100万kW級を2020年度までに稼働させることを検討している。

 洋上風力発電は50万kW(500MW)の規模から始めて、最大300万kWまで拡大させる構想を推進していく。2014年度に事業者を選定して環境影響評価を開始する。北九州市の沖合は平均風速が7メートル/秒を超えることから、風力発電に適した海域であることは間違いない。

 この計画に先立ってNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)とJ-POWER(電源開発)が共同で、北九州市の沖合1.4キロメートルの海域に2MWの実証設備を建設した(図5)。風車の直径が80メートルを超える大型の発電設備から、海底を通して陸上まで送電する。2015年3月までかけて、洋上風力発電の信頼性を検証する予定だ。その成果を次の商用プロジェクトに反映させる。

図5 北九州市沖の洋上風力発電設備。出典:NEDO、J-POWER

 響灘臨海工業団地にはメガソーラーもある。九州の北部を拠点にする西部(さいぶ)ガスグループが1.7MWの発電設備を2013年7月に運転開始したのに続けて、20.5MWの巨大なメガソーラーを2014年9月までに稼働させる計画だ。

 太陽光を中心に福岡県の全域で再生可能エネルギーが急速に広がってきた。すでに太陽光発電の導入量は全国で第4位まで上昇して、トップ3に入るのは目前の状態にある(図6)。今後は風力に加えて、小水力発電の拡大も期待できる。

図6 福岡県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 福岡県が運営する治水用のダム12カ所を対象に小水力発電の導入可能性を調査したところ、少なくとも4カ所で投資を回収できる見込みが立った。そのうち最も収益性が高いのは、県西部の糸島市にある「瑞梅寺ダム」である(図7)。

 ダムの直下に99kWの発電設備を導入することが可能で、年間の発電量は67万kWhを想定できる。売電収入は年間2300万円になり、11年で投資を回収できる見通しだ。固定価格買取制度の対象になる20年間では1億4800万円の利益が出る。地元の糸島市が発電事業者になって、2015年3月までの運転開始を目指している。

図7 小水力発電を実施する「瑞梅寺ダム」と発電設備。出典:福岡県県土整備部

 太陽光発電だけでも2020年度の導入目標を上回ることが確実な状況で、さらに風力と小水力発電が拡大していく。最新鋭の火力発電も加えて、福岡県が九州の新しいエネルギー供給拠点になる日は近い。

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