原子力で黒字化を図る東京電力、7月の再稼働を事業計画に織り込む法制度・規制

東京電力の再生を図る「新・総合特別事業計画」が政府の認定を受けて確定した。2022年度までの10年間に合計4兆8000億円のコストを削減する計画で、2014年7月から柏崎刈羽原子力発電所を再稼働して燃料費を圧縮する考えだ。計画通りに進めば、毎年度に黒字を計上できるようになる。

» 2014年01月15日 21時50分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 東京電力の会長に4月に就任する數土(すど)文夫氏(JFEホールディングス相談役)は、みずから責任を負う「新・総合特別事業計画」の発表にあたり、「総括原価方式と地域独占体制からの脱却に全力を挙げて取り組んでいく」と強い決意を示した。

 電力会社の経営体質を弱体化させた2つの問題を排除して、市場競争力を強化することが最大の課題になる。だが一方で、原子力発電所の再稼働を前提にした不確実な計画でもある。福島第一原子力発電所の事故に対する賠償額が5兆円を超える見込みで、抜本的な経営改革を迫られていることから、2022年度までの10カ年計画を再構築した。

 初年度にあたる2013年度(2014年3月期)には、早くも271億円の経常利益を計上する見込みだ(図1)。「まだ流動的ながら、3年ぶりに経常黒字になる」(廣瀬直己社長)。営業収益(売上高+その他収益)が前年から6645億円も増えるためだが、増収の要因は燃料費の増加である。コストが増えれば利益も出るという、まさに総括原価方式による効果に過ぎない。

図1 「新・総合特別事業計画」による収支計画。出典:東京電力、原子力損害賠償支援機構

 4月から始まる2014年度(2015年3月期)には、さらに営業収益が増えて、経常利益も1677億円に拡大する。ただし柏崎刈羽原子力発電所の再稼働を前提にしている。1〜7号機のうち、「まず7号機を7月に、6号機を9月までに再稼働できることを想定した」(廣瀬社長)。さらに1号機と5号機も2015年に再稼働させる予定だ。

 残る2〜4号機の稼働時期は未定だが、1基を再稼働できると年間に約1000〜1450億円のコストを削減できると見積もっている。この3基が再稼働できないとしても、2015〜2022年度まで経常利益の黒字は続く見通しである(図2)。

図2 中長期の収支計画(2015〜2022年度)。出典:東京電力、原子力損害賠償支援機構

 もし2014年7月からの再稼働が大幅に遅れる場合には、遅くとも同年秋までに電気料金を最大10%値上げする必要があることも明らかにした。一方で再稼働が進めば、逆に値下げの余地が生まれることを示唆している。

 並行して経営の合理化も進めていくことで、10年間に合計4.8兆円にのぼるコストを削減する方針だ。その一環でグループ会社を含めて2000人規模の希望退職を実施することも決めた。

 経営合理化の目玉になる施策が、持株会社への移行である。小売の全面自由化が始まる2016年度をめどに、発電・送配電・小売の3つの事業会社を独立させる(図3)。現在よりも少ない人員で競争力を高める狙いだ。

図3 持株会社を中核にした新体制(2016年度)。出典:東京電力、原子力損害賠償支援機構

 こうした事業計画が順調に進むと、国(原子力損害賠償支援機構)の持株比率を現在の50%超から徐々に減らしていくことが可能になる。2020年代の初めに3分の1未満に、2030年代の前半にはゼロにすることを想定している。ただし、さまざまな前提条件をクリアする必要があり、実現できる可能性は決して大きくない。

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