事故で停止中の石炭火力発電所が8月に仮復旧へ、九州の供給力が40万kW増加電力供給サービス

3月に事故を起こして運転を停止している「松浦火力発電所2号機」が8月中旬に仮復旧する見通しになった。通常時の出力100万kWに対して40万kW程度の発電能力を予定している。この発電所から電力の供給を受ける九州では今夏の需給状況が厳しく、経済産業省は運転開始の前倒しを要請した。

» 2014年06月02日 09時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 J-POWER(電源開発)が長崎県で運転している「松浦火力発電所」には、石炭火力で日本最大級の出力100万kWの発電設備が2基ある。このうちの2号機が定期点検中の3月28日に事故を起こして運転を停止してから2カ月以上が経過した。復旧計画を検討してきたJ-POWERは発電設備を部分的に稼働させる方法で、8月中旬に仮復旧させる予定だ。仮復旧時の発電能力は40万kW程度を想定している。

 事故を起こした2号機は2つの発電機を備えている。その中の1つの発電機を回転させる「低圧タービンローター」が落下して、2号機の全体が運転を停止した(図1)。J-POWERは落下・損傷した低圧タービンローターを修復して再利用する方法と、新品に交換する方法を検討した結果、損傷品の再利用は困難と判断して新品に交換する。

図1 落下・損傷した低圧タービンローター。出典:J-POWER

 すでに事故直後から新品の製作を開始したものの、新品に交換して完全に復旧できる時期は1年後の2015年6月末の見込みである。このため現在の発電設備を部分的に稼働させて2014年8月中旬に仮復旧することにした。ただし発電した電力の大半を利用する九州では今夏の電力需給状況が厳しいことから、経済産業省は仮復旧の開始時期を前倒しするようにJ-POWERに要請している。

 松浦火力発電所の2号機は1997年に営業運転を開始した。当時では最先端の石炭火力発電設備で、ボイラーで高温・高圧の蒸気を発生させて3種類のタービンローターで発電機を回す(図2)。まず高圧と中圧のタービンローターを回転させて発電した後に、さらに低圧のタービンローターで発電する方式だ。低圧のタービンローターは2つを併用する構造になっていて、そのうちの1つが落下・破損した。

図2 「松浦火力発電所2号機」の発電設備の構成(仮復旧の状態)。出典:J-POWER

 J-POWERは仮復旧のために、落下した低圧タービンローターに蒸気を送り込む管を改造する(図3)。これにより正常な低圧タービンローターだけに蒸気を送る形になる。通常は高圧と中圧のタービンローターによる発電能力のほうが大きい。低圧のタービンローターが1つの状態でも全体の発電能力は50%以上になるが、仮復旧の段階では安全性を重視して出力を40万kW程度に抑えるものとみられる。

図3 仮復旧のための発電設備の改造。出典:J-POWER

 九州では昨年に続いて今年の夏も、電力の需給状況が厳しくなる予想だ。九州電力によると、他の電力会社からの融通量を増やしても8月の予備力は51万kWしかなく、停電を回避できる最低限の予備率3%を何とか確保できる状況にある。

 もし大型の火力発電設備1基が停止した場合には、揚水発電も影響を受けるために、140万kWの供給力が不足する可能性がある(図4)。J-POWERの松浦2号機が40万kWでも供給できるようになれば、状況は大幅に改善する。昨年の夏は8月20日に九州電力の需要が最大になった。仮復旧の時期が8月中旬から少しでも前倒しできることが望ましい。

図4 九州電力の大型火力発電設備(70万kW)が停止した場合の需給状況。出典:九州電力

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