日本で最高に暑い地域に、先駆けのメガソーラーが集まるエネルギー列島2014年版(10)群馬

関東平野の北西に広がる群馬県には太陽光発電の先進的なプロジェクトが多い。その中心は「太陽光発電推進のまち」を掲げる太田市だ。2012年に全国の自治体で初のメガソーラーを建設したほか、古墳の周囲にも発電所を展開する。夏の気温が非常に高く、太陽電池の種類で発電量を増やす。

» 2014年06月17日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 群馬県は以前から山や川の資源を生かしてバイオマスや水力発電が盛んな地域だが、ここ数年で太陽光発電の導入量が急速に伸びてきた。実は関東地方の中で日射量が最も多く、太陽光発電に適している(図1)。特に県の中部から南部にかけては全国の中でもトップクラスの日射量で、太陽光発電が活発な長野県や愛知県と比べてもひけをとらない。

図1 群馬県の平均日射量(太線で囲んだ部分)。数字は1日あたりのメガジュール/平方メートル。出典:NPOぐんま、NEDO

 その日射量が多い地域の一角を占めるのが太田市だ。固定価格買取制度が始まった2012年7月1日に、自治体が運営する全国初のメガソーラー「おおた太陽光発電所」の運転を開始した。さらに9月には「太陽光発電推進のまち」を宣言して、市を挙げて太陽光発電に先進的に取り組んでいくことを表明している。

 現在までに太田市が稼働させたメガソーラーは市内に3カ所ある。おおた太陽光発電所から1年後には、民間の倉庫の屋根を借りて2つ目の「おおた緑町太陽光発電所」が運転を開始した(図2)。このプロジェクトも自治体が屋根を活用するモデルとして先進的な事例になっている。

図2 「おおた太陽光発電所」(左)と「おおた緑町太陽光発電所」(右)。出典:太田市役所

 さらに目を引くのが2013年10月に稼働した3つ目の「おおた鶴生田町(つるうだちょう)発電所」である。市街化区域の遊休農地に建設したメガソーラーだが、発電所の中に何カ所か丸く残された部分がある(図3)。

 この一帯には6世紀くらいに造られた古墳が点在していて、発電所の用地にも古墳群が残っている。古墳が現存する部分には太陽光パネルを設置しないようにしたために、そこだけが抜けた形になっているわけだ。

図3 古墳が点在する「おおた鶴生田町発電所」。出典:JFEエンジニアリング

 太田市が運営する3カ所のメガソーラーの発電能力を合計すると4MW(メガワット)になる。年間の発電量は440万kWhを想定していて、一般家庭で1200世帯分の電力使用量に相当する。太田市の総世帯数は約9万世帯にのぼるため自給率で見ると小さいが、年間の売電収入は1億7600万円にも達して市の貴重な収入源になっている。

 自治体が取り組む発電事業として、収益モデルの点でも先進性がある。発電設備をリース契約にして初期投資を抑える方法で、リスクを低くして安定した利益を出せるようにした(図4)。この事業スキームは3カ所のメガソーラーすべてに適用している。

図4 太田市のリースを活用した発電事業のスキーム。出典:太田市役所

 その一方で発電量を最大限に増やせるように、太陽電池の種類も慎重に選定した。メガソーラーを建設する以前の2011年から、市内の公園に3種類の太陽電池を設置して発電量の比較を続けている。直近の2013年度の実績では、一般的な結晶シリコンタイプよりも銅などを素材にしたCIS化合物タイプの太陽電池の発電量が最も多かった。

 3つのメガソーラーの中では、おおた太陽光発電所と鶴生田町発電所がCIS化合物タイプの太陽電池を使っている。おおた太陽光発電所では2013年度の発電量が当初の予想と比べて1.4倍以上になった。設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は17.9%に達して、国内の標準値である12%を大幅に上回っている。特に夏の7月〜9月の増加率が大きい(図5)。

図5 「おおた太陽光発電所」の2013年度の発電量。出典:太田市役所

 太田市がある群馬県の南部は、夏の最高気温が全国でも常に上位に入るほど高い。太陽電池は高温になると発電量が低下する傾向があって、その中ではCIS化合物タイプは熱にも強い特性がある。地域の気候に合う太陽電池を選択したことが設備利用率を高くできた要因の1つと考えられる。

 おおた太陽光発電所を皮切りに、固定価格買取制度が始まってから群馬県全体で太陽光発電の導入量が多くなった(図6)。2013年12月末までに運転を開始した設備の規模は全国でも9位に入り、さらに順位が上昇する勢いは加速していく。

図6 固定価格買取制度の認定設備(2013年12月末時点)

 県の北部に位置する昭和村で、関東では最大になる発電能力43MWのメガソーラーの建設計画が進んでいる。いちごECOエナジーが事業者になって、2014年10月に着工する予定だ。運転開始は2年半後の2017年4月になる。年間の発電量は5000万kWhを見込んでいて、一般家庭で1万4000世帯分の電力を供給することができる。これは昭和村の全家庭(総世帯数2300)が使用する電力の6倍に匹敵する。

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