水道から作る大都会の電力、太陽光・小水力・バイオマスの比率を20%にエネルギー列島2014年版(13)東京

1300万人が暮らす東京都では生活インフラになる水道設備の規模は巨大だ。設備の運営に膨大な電力を必要とする半面、発電に利用できるエネルギーも豊富にある。水道施設の上部で太陽光発電を展開しながら、水路の落差を生かした小水力発電や下水の汚泥によるバイオマス発電を拡大する。

» 2014年07月08日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 人口が密集する東京都には、自然エネルギーはさほど多くない。メガソーラーや風力発電所を建設できるような広い空地は限られていて、バイオマスの燃料になる間伐材を供給できる森林の面積も狭い。代わりに1300万人の都民を支える上水道と下水道の設備に、再生可能なエネルギーが大量に流れている。

 東京都は水道設備で利用する再生可能エネルギーの比率を10年間で20%まで高める計画に着手した。下水道では「スマートプラン2014」、上水道では「東京水道エネルギー効率化10 年プラン」を2014年に入ってから開始して、太陽光や小水力発電、バイオマス発電を拡大していく。

 このうち下水道設備で利用できる再生可能エネルギーは4種類ある。処理場の上部の空間を利用した太陽光発電をはじめ、下水を処理した後の水流を生かした小水力発電、さらには処理中に発生するガスや熱でも発電することができる(図1)。すでに一部の処理場に発電設備を導入して効果を実証中だ。

図1 下水道設備の再生可能エネルギー導入例(2012年度に実施)。出典:東京都下水道局

 先行して太陽光発電を実施したのは、東京湾岸に立地する「葛西(かさい)水再生センター」である。下水を処理するためには、水をくみ上げるポンプ場のほか、沈殿池や脱水設備など、広いスペースを必要とする施設が欠かせない。その施設の上部は平坦で、太陽光パネルを設置するのに適している。

 葛西水再生センターでは沈殿池の上に2種類の太陽光パネルを設置した。標準的な架台に固定するパネルに加えて、太陽光の向きに合わせて動く追尾型のパネルを組み合わせた(図2)。パネルの角度を変えられる追尾型は垂直に立てることも可能なため、処理施設を点検する時に作業スペースを確保できるメリットもある。発電能力は合計で490kWになり、年間で60万kWhの電力を供給する。

図2 「葛西水再生センター」に設置した追尾型の太陽光パネル。出典:東京都下水道局

 東京都は2014〜2015年度の2年間で、新たに8カ所の下水処理場に太陽光発電を導入する計画だ。さらに2024年度までに導入対象を広げて、年間に約6000万kWhの電力を供給できるようにする。一般家庭で1万6000世帯を超える電力使用量に匹敵する規模になる。

 これと並行して上水道の施設でも、水をろ過するための池の上部などに太陽光パネルの設置を進めている(図3)。東京都内には大小さまざまな浄水場が各地域にあって、それぞれ処理工程ごとに広い池がある。池の上部の空間だけではなく、管理棟など建物の屋上も太陽光パネルの設置対象に加える。

図3 浄水場に設置する太陽光発電設備。出典:東京都水道局

 すでに12カ所の浄水場や貯水池に太陽光発電を導入して、合計で5.6MW(メガワット)の発電能力に拡大した。2014〜2016年度の3年間では6カ所に合計2.1MWを設置することが決まっているほか、残る19施設にも導入を検討中だ。

 太陽光発電と同時に小水力発電も展開していく。都内全域に広がる水道設備には発電に使える水力エネルギーが点在している。上流の貯水池から浄水場までの水路の落差で生まれるエネルギーと、末端の給水所まで水を送るために必要な水圧によるエネルギーの2種類がある。落差による小水力発電は1カ所で実施済みで、一方の水圧を利用する発電設備は4カ所に導入した。

 その中で最新の導入事例が、2013年10月に運転を開始した「葛西給水所」である(図4)。5キロメートルほどの場所にある浄水場から水を受ける一方、15キロメートルも離れた別の給水所まで水を送り出す役割がある。この時に生じる余剰の水圧で発電する仕組みだ。

図4 「葛西給水所」の全景と所在地(上)、小水力発電の仕組み(中)と発電設備(下)。出典:東京都水道局

 発電能力は340kWにもなり、年間に140万kWhの電力を作ることができる。一般家庭で約400世帯分の使用量に相当する。設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は47%で、標準的な小水力発電の60%と比べると低めだが、それでも太陽光発電の4倍の効率である。

 2種類の水力エネルギーを利用して、今後さらに5カ所の浄水場や給水所に小水力発電設備を導入する計画だ。中でも東京都のほぼ中央に位置する武蔵野市の「境浄水場」の発電規模がひときわ大きい。2基の水車発電機を使って、2カ所の貯水池から送られてくる水流で発電する(図5)。その間に生じる約20メートルの落差により、2基の合計で900kW程度の発電が可能になる。

図5 貯水池からの落差を利用する「境浄水場」の小水力発電。出典:東京都水道局

 境浄水場は90年前の1924年に造られた歴史のある水道設備だが、処理能力を増強するために2021年度までに再構築する予定だ。その再構築に合わせて小水力発電と太陽光発電の両方を導入する計画である。

 東京都では現在のところ、固定価格買取制度の認定を受けた発電設備はバイオマスが目立つ(図6)。いずれも廃棄物を利用したものである。今後は水道設備をはじめとする大都市ならではの利用形態で太陽光と小水力を拡大しながら、バイオマスと合わせて再生可能エネルギーの比率を大きく引き上げていく。

図6 固定価格買取制度の認定設備(2013年12月末時点)

*電子ブックレット「エネルギー列島2014年版 −関東・甲信越編 Part2−」をダウンロード

2016年版(13)東京:「全国から再生可能エネルギーを集める、バイオマスの電力に続いて水素も」

2015年版(13)東京:「水素で広がるスマートシティ、2020年のオリンピックに電力・熱・燃料を供給」

2013年版(13)東京:「東京産の電力300万kW創出へ、火力・太陽光・地熱・水力すべて生かす」

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