なぜ高い水素の設備、現場の努力を生かすには和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(6)(3/4 ページ)

» 2014年11月25日 09時00分 公開

天然ガス自動車向け技術を転用

 FCVに70MPa(700気圧)の水素を充填するためには、圧縮機と呼ばれる装置が必要だ。水素ステーションの圧縮機を開発・販売している加地テック 東京営業部次長の瀬木健次氏に、水素ステーション用の圧縮機に関する現在の取り組みや今後の課題について話を聞いた(図6)。

図6 加地テックの瀬木健次氏

和田氏 圧縮機に関する取り組みについて教えて欲しい。

瀬木氏 当社はもともと天然ガス自動車用の圧縮機を数多く製作してきた。日本には約300カ所の天然ガス自動車用ステーションがあり、そのうち約230カ所に当社の圧縮機が導入されている。水素ステーションでも、当社の経験と技術を生かすことができると考え、約2年前からプロジェクトを立ち上げて取り組んでいる。

 当社の水素ステーション用圧縮機の特徴は、差圧充填方式の一括昇圧式であること。圧縮機に0.5MPa(5気圧)という低圧の水素を注入すると、高圧の82MPaまで1台で一気に昇圧できる(図7、図8)。従来の圧縮機と異なるのは最大圧力だ。天然ガス自動車用の圧縮機は約25MPa。水素ステーション用は圧力が異なるため、耐久性や信頼性などに重点を置いて開発してきた。

図7 一括昇圧82MPa圧縮機 出典:加地テック

 

図8 一括昇圧82MPa圧縮機の透視図 出典:加地テック

将来有望な方式は1つ?2つ?

和田氏 水素ステーション用の圧縮機は、差圧充填方式と直充填方式の2方式がある。今後どちらがどのように発展するとみているのか。理由も知りたい。

瀬木氏 当社の予想では、差圧充填方式が主流になるとみている。差圧充填方式はいったん圧縮機を使って82MPaまで昇圧し、その後は82MPa級の蓄圧器で水素を蓄える方式だ。圧縮機の吐出量が340Nm3/hレベルと小型化できる利点がある。さらに今後FCVが普及していったときに、水素ステーション側では蓄圧器を増量するだけで対応できる。

 一方、直充填方式は、1200Nm3/h以上の大型圧縮機を用いる。蓄圧器に蓄えることなく、圧縮機からプレクールを通して直接ディスペンサーに82MPaレベルの水素を送る方式である。機械のサイズが大きいことに加えて、1200Nm3/h以上の圧縮機を動かすためには大電力が必要になる。差圧充填方式なら100kW程度の電力量で済む。実際に設置する場合には電力量が少なくて済むことは重要だ。

 価格にも大きな差がある。圧縮機単体(工事費別)で、差圧充填方式と直充填方式には数千万円の差がある。

和田氏 差圧充填方式に優位性があるように思えるが、なぜ直充填方式の開発も続いていくのか。

瀬木氏 2つ要因がある。1つは蓄圧器の価格がまだ高いこと。2つ目は蓄圧器には使用制限(サイクル数)が規定されており、途中で交換しなければならないことだ。主な蓄圧器はタイプI(鋼製容器)と、タイプIII(容器全体にわたって金属ライナーをカーボンファイバーで圧力補強したもの)の2種類あり、どちらも交換が必要だ。

 圧縮機などは一度据え付けるとよほどのことがない限り、交換はない。このため、蓄圧器が不要である直充填方式も注目されている。当社は直充填方式として、1200Nm3/hの圧縮機開発も進めている。

 当社としては主流は差圧充填方式だと考えている。蓄圧器も試験研究が進んでおり、寿命が延びる見込みがあることが1つ。もう1つは、FCVが増えた場合の対応だ。差圧充填方式では蓄圧器を増量すればよいが、直充填方式では圧縮機をもう一式設置しなければならない。コストはもちろん、敷地面積などの制限から現実には難しいことが多いだろう。

 当社独自の強みは一括昇圧方式で82MPaまで圧力を上げることができること。差圧充填方式といっても40MPa程度の圧縮機を用い、その後ブースターを用いて82MPaまで昇圧する手法が大半だ。当社のような技術を持つ企業は決して多くはない。

 直充填方式は、1200Nm3/h以上と吐出量が大きいので、どうしても40MPaの圧縮機とブースターの組合せで82MPaに昇圧することになる。当社独自の技術を生かすことができ、将来の展開がたやすい技術に注力している。

和田氏 今後はどのようなサイズ・吐出量の圧縮機が主力となるのか。

瀬木氏 差圧充填方式であれば、吐出量340Nm3/h、吐出圧力82MPaが主流になるであろう。さらに当社では、この圧縮機と蓄圧器、さらにはプレクールをセットにしたパッケージ式の販売も開始している。特徴は、ブロックのおもちゃのように設置場所の諸条件に合わせて、圧縮機や蓄圧器、プレクールなどの組合せ形状を、自由に変えることができる点だ。天然ガス自動車用スタンドでの圧縮機設置で得たノウハウを投入していきたい。

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