なぜ高い水素の設備、現場の努力を生かすには和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(6)(4/4 ページ)

» 2014年11月25日 09時00分 公開
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圧縮機のコスト低減するには

和田氏 水素ステーションではコスト低減が大きな課題だ。主要機器である圧縮機ではどのような取り組みがあるのか。将来の見通しはどうなのか。

瀬木氏 天然ガス自動車用圧縮機の例が参考になる。天然ガス自動車用の圧縮機が出現した時期の価格を100とすると、数年で3割程度低下し、約7割の価格となった。水素圧縮機についても、同様にコスト低減を図り、同等のレベルに到達できると考えている。

 コストダウンを進めるためには当社独自の技術革新はもちろん、標準化や法規制の緩和も必要だ。標準化が進まない状態では、現在の規格に合致したものの他、(現在、規制緩和が検討中のものについては)規制緩和後の姿に対応したものなど、新旧いろいろと準備しなければならない。打ち手が増えてしまう。

 材料では、圧縮機のシリンダーブロック(鋼製)などに指定材料があり、納期とコストが掛かっている。今後は鋼種拡大に向けた研究開発と規制の緩和に期待している。

和田氏 現時点で納期はどれほどなのか。

瀬木氏 圧縮機の納期は約10カ月。これは340Nm3/h、1200Nm3/hともほぼ同じである。もっと短縮できないかという顧客の要望がある。実は先ほど説明した指定材料の納期に多くの時間を取られている。主要部品は認可を得てからでないと作れないため、納期が長くなっている。

和田氏 最も注力している圧縮機の技術的課題は何か。

瀬木氏 一括昇圧式の82MPa圧縮機は当社の特徴だ。それだけに技術的な難易度が高く、耐久性を高めることに注力している。各部品を水素脆(ぜい)化*6)させないように、いろいろな箇所に工夫をこらしている。約10年前に110MPaまで対応した圧縮機を開発・納入したこともあり、これらの経験がノウハウ蓄積に生きている。

*6) 鋼材が水素を吸収(吸蔵)することによって強度が低下する現象をいう。対策を講じないと脆性破壊による破断が生じる。

土木工事費費用削減のポイントは

和田氏 土木工事費や設置費用などの付帯設備の費用低減は可能なのか。

瀬木氏 圧縮機側でできることは、圧縮機とその周辺機器(蓄圧器、プレクール用冷凍機)をパッケージ化することだ。こうすれば、現地での配管や配線の作業を簡素化することができる。

和田氏 規制緩和に関して機器製造側から見た面はどうか。

瀬木氏 規制緩和とは少し違うものの、研究開発の進捗によって、使用可能な材料(鋼材)が拡大することが先決だ。納期、価格、いろいろな面で非常にインパクトが大きい。

和田氏 水素ステーションへの理解と普及方法はどう考えているか。

瀬木氏 「燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)」の一員として、積極的に情報・意見交換を進め、これらを通して標準化や普及のためのPR活動などに協力していければと考えている。

設備費用は現場が下げる、だが選択に迷いが残る

 今回、実際に水素ステーションの主要機器や設備機械一式を供給する企業2社にインタビューした。今まであまり紹介されてこなかった、まさに製造現場の第一線である。そこから見えてきたのは、設備費用の低減はわれわれが進めるという自覚だ。ただし問題もあった。現実にはコスト低減を行おうにも、将来の方向性がはっきりと見えないことだ。方式や技術の選択肢が多い(絞りきることができない)ことが理由である。

(1)水素製造装置について

 現在はオフサイト方式が優勢と見られており、その場合は現地で水素を作る水素製造装置は不要となる。しかし、将来FCVが普及した段階では違う。都市部や内陸部でもオンサイト方式に有効性がある。水素製造装置の価格低減を進めるためには、FCVがどれくらいの時間、量で普及していくのか、どの時点でオンサイト方式も必要となってくるのか、その見極めが大切である。これも選択の分岐と考える。

(2)圧縮機について

 圧縮機では、差圧充填方式と直充填方式があり、方式によって構造や費用が大きく異なる。取材からは差圧充填方式が有望という声を聞くことができた。ところが、直充填方式も将来伸びてくる可能性がある。どのように判断するかによって企業の軸足が変わってくる。これも選択の分岐であり、現在は将来動向を探っている段階であろう。

 水素ステーションの普及を今後進めるためには、できる限り製造機器メーカーの迷いを払拭することが必要だろう。もちろん競争領域と協調領域はある。だが、どのタイミングでどのような方式で進んでいくのか、業界としての「水素ステーション方式のロードマップ」があると望ましいようにも思えた。水素ステーションは設備機器だけに、一度設置すると利用期間が長く、急な方向転換はできない。これら全てを市場に任せると、方向性がなかなか定まらず、価格も下がりにくいように思える。

筆者紹介

和田憲一郎(わだ けんいちろう)

1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。


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