なぜ高い水素の設備、現場の努力を生かすには和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(6)(2/4 ページ)

» 2014年11月25日 09時00分 公開

水素製造装置の課題は

和田氏 水素製造装置の課題は何か。

山崎氏 水蒸気改質法による水素製造装置の歴史は古く、技術的に確立されている。現在は水素ステーション向けに小型化、コンパクト化を図ると同時に、低価格化を狙っている。水素ステーション向けの水素製造装置は、300Nm3/hで9000万円の目標が掲げられており、これをクリアするのが最大の課題*4)。また、最新型の水素製造装置「HyGeia-A」では、都市部にも設置することを考慮し、防音対策も配慮している(図3、図4)。

*4) 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2014年7月に公開した「水素エネルギー白書」によれば、現在の水素ステーションの整備費は4〜5億円程度(供給能力300Nm3/hの固定式ステーションの場合)、一般的なガソリンスタンドの整備品は1億円以下である。

図3 水素製造装置「HyGeia」 出典:三菱化工機
図4 水素製造装置HyGeiaの動作フロー 出典:三菱化工機

和田氏 水素製造装置以外にも、圧縮機や蓄圧器(ボンベなど)、プレクール、ディスペンサー*5)などの主要機器があり、コスト低減が課題となっている。どのような取り組みを進めているのか。

山崎氏 水素製造装置は自社開発、自社製造品だ。その他の機器は購入品である。システム全体が高価であり、価格低減が必要なことは理解しており、当社でもできる限りコスト削減できるように取り組んでいる。

*5) プレクールとはディスペンサーに水素を送る直前に水素を冷却する装置。外気温が40度の場合、3分で水素を充填しても、燃料タンク内の水素温度がタンク材料の耐熱強度を維持できる85度を超えないようにするために、あらかじめ−40度まで冷却しておく。ディスペンサーとは、FCVに水素を注入するための設備。ヒトの背丈ほどの高さがあり、注入用のホース(ノズル)を備えている。注入した水素の量を計量する機能も備えている。

設備全体を作ることにメリットあり

和田氏 水素製造装置だけではなく、水素ステーション機械設備一式を建設することにメリットはあるのか。

山崎氏 顧客の目線でいえば、単品の購入ではなく一括取りまとめにして依頼できることであろう。設置の際には、官公庁への申請業務がある。スムーズに手続きが進むことも水素ステーション全体の建設では重要だ。

 当社としてのメリットは、全体の建設を行うことで、知見が広がることだ。これにより、水素製造装置にとどまらないコストダウンなどのアイデアが出やすくなるものと考えている。

和田氏 土木工事費や設置費用などの付帯設備の費用低減はどうか。

山崎氏 ステーション周囲の障壁を堅牢にしなければならないなど、規則に基づいて建設している。このため設置費用はかなり高価になる。それに輪をかけて、最近は東京オリンピックや東日本大震災の復興のため、土木工事について企業や人の手配が付きにくくなっており、工事費用の高騰を招いている。コスト低減とは相反する動きだ。

和田氏 規制緩和に関して機器製造側からどのように見ているのか。

山崎氏 設備の材料や周囲の公道までの距離の規制が緩和されれば、建設費を抑えることができ、建設用地も増えると思われる(一般高圧ガス保安規則による規制)。

和田氏 水素ステーションへの理解と普及方法はどう考えているか。

山崎氏 水素ステーションの運営会社が主体的に行うものだろう。水素製造装置のメーカー、水素ステーション全体の建設を行う立場として、装置、設備の安全性や騒音など環境面への配慮を説明する資料を拡充し、水素製造装置や水素ステーションに関する理解を深めていければと考えている。

二酸化炭素フリーな水素製造が課題

和田氏 水素製造の技術的課題のうち、最大の懸念事項は何か。

山崎氏 水蒸気改質による水素製造には、二酸化炭素(CO2)の排出の問題が付きまとう。他の水素製造方法や供給方法に比較して、ライフサイクル(原料の調達から供給まで)で見た場合、二酸化炭素排出量は決して多くはない。だが、二酸化炭素フリーにできれば、それに越したことはない。現在、二酸化炭素フリーな水素ステーションへの取組みとして、福岡市や九州大学、豊田通商と共同で、下水バイオガスから水素を製造し、水素ステーションで供給する実証事業を進めている(関連記事)。これは2014年度「下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)」に提案し採択された(図5)。現在は、2015年3月の完成を目指して進めているところだ。

 日本には約2000カ所の下水汚泥処理場があるが、そのうち下水バイオガスが発生する消化槽を持つ処理場が約300カ所ある。今回の実証事業を経て、将来は二酸化炭素フリーの水素ステーションも増やしていきたい。

図5 下水バイオガス原料による水素創エネ技術 出典:三菱化工機

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