営農型の太陽光発電を広げる新工法、水田に並べたパネルが上下に移動スマートアグリ

農業と太陽光発電を同時に実施するソーラーシェアリングが全国に広がってきた。佐賀県では水田の上部に太陽光パネルを並べる新しい施工方法の実証が始まる。架台の位置は最高3メートルで、上下に移動することが可能だ。稲作時や休耕期に高さを変えながら、収穫量と発電量の最適化を図る。

» 2015年03月26日 13時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 佐賀県と福岡県の県境にある山間部の三瀬村(みつせむら)で、ソーラーシェアリングの実証プロジェクトが本番を迎えようとしている。5月上旬に始まる田植えを前に、水田の上に設置した58枚の太陽光パネルが3月27日に発電を開始する。

 このプロジェクトの最大の特徴は、太陽光パネルを設置する架台にある。水田の両端に立てた2本のタワーのあいだをワイヤーでつなぎ、その上に架台を設けて太陽光パネルを並べる方法だ(図1)。架台の高さは3メートルまで可能で、ワイヤーを調節して上下に移動することができる。通常は強風を受けても支障が出ないように、太陽光パネルの位置を2メートル程度まで下げた状態で発電する。

図1 稲作と太陽光発電を可能にする設置方法(CGで作成)。出典:福永博建築研究所

 稲の高さは伸びても1メートル以下に収まる。ただし農作業に必要なトラクターや田植え機が架台の下を通れるように高さを調節可能にした(図2)。三瀬村では稲の刈取に高さが2.7メートルもある大型のコンバインを使うため、その時には架台を3メートルまで引き上げる。こうして架台を上下に移動できる営農型の太陽光発電は日本で初めての試みになる。

図2 休耕期に太陽光パネルを高くした状態(CGで作成)。出典:福永博建築研究所

 農地の面積は約2000平方メートルある。全体を3つの区画に分けて、2つの区画で太陽光発電を実施する一方、残る1つの区画では稲作だけを続けて収穫量や品質の違いを比較する。太陽光パネルは3つのメーカーから250Wタイプの製品を採用した。各パネルのあいだは1.8メートルの間隔を空けられるように架台を組んだ(図3)。水田の各部分にパネルの影が1日のうち3時間以上かからないようにするためである。

図3 架台の設置状況(高さ3メートルに上げた状態)。出典:福永博建築研究所

 この実証事業はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が農地や傾斜地などを対象に、太陽光発電の可能性を検証する目的で2014〜2016年度に実施する。発電設備の企画や設計は福岡県の福永博建築研究所が担当して、NEDOと共同出資で3年間のプロジェクトを推進していく。

 検証するテーマは3つあって、架台の耐久性、発電コスト、稲の生育に対する影響を調べる。発電コストは電気料金と同等の1kWhあたり22〜24円が目標である。稲の生育に関しては、太陽光パネルを設置しない区画と比べて収穫量を80%以上に維持することが営農型の太陽光発電事業を継続する条件になる。収穫後に米の品質を含めて九州大学で検査して報告書にまとめる予定だ。

 農地を所有する農家は通常どおり稲作に取り組みながらソーラーシェアリングに協力する。収穫量が減少する代わりに、農地の貸付料を受け取る契約を結んだ。三瀬村では農家の後継ぎが減っていく問題を解消するために、太陽光発電で収益を拡大できる期待は大きい。各農家がソーラーシェアリングを実施して「三瀬村発電所」を実現する将来構想もある。

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