大正時代の農業用水路で小水力発電、地域の負担ゼロで古い水路も改修自然エネルギー

かつて宿場町として栄えた岐阜県の山間部に古い農業用水路が流れている。この水路を利用して新しい小水力発電所の建設工事が始まった。発電事業者が老朽化した水路も更新する取り組みで、地域の負担なしに設備を更新できる。同様の方法で県内の農業用水路に小水力発電を拡大していく。

» 2015年06月16日 13時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
図1 小水力発電所の位置。出典:飛島建設、オリエンタルコンサルタンツ

 小水力発電所を建設する場所は、岐阜県の東部に位置する中津川市の「落合地区」にある。江戸時代には中山道の「落合宿」としてにぎわったところで、近くを木曽川が流れている(図1)。

 この地区に大正時代に造られた農業用水路があって、小水力発電に適した大きな落差を得られる地点がある。再生可能エネルギー事業に取り組む飛島建設とオリエンタルコンサルタンツの2社が発電所の建設計画を決めて、まず老朽化した水路の改修工事から着手した(図2)。水路の改修が完了して、6月12日に発電設備の建設工事を開始した。

図2 農業用水路の改修前(左)と改修後(右)。出典:飛島建設、オリエンタルコンサルタンツ
図3 農業用水路を導水路として利用する場合の小水力発電所の建設イメージ。出典:飛島建設、オリエンタルコンサルタンツ

 新たに建設する設備は発電所のほかに、農業用水路から水を取り込むための水槽と水圧管路である(図3)。発電に利用できる水流の落差は64メートルに達する。水量は季節によって変動するが、最大で毎秒0.25立方メートルになる。

 水車にはクロスフロー型を使う(図4)。水が水車の外側と内側から交差するように流れることが特徴で、構造が簡単なために据付や保守に手間がかからない。発電機と組み合わせて最大126kW(キロワット)の電力を供給することができる。運転開始は12月を予定している。

図4 クロスフロー型水車の外観(左)と構造(右)。出典:飛島建設、オリエンタルコンサルタンツ、日本小水力発電

 年間の発電量は「利用できる水量が季節によって変動するため公表していない」(飛島建設)。一般的に小水力発電の設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は平均で60%程度だが、農業用水路を使う場合には春から秋にかけて農業に水を利用するために低めになるケースが多い。

 仮に設備利用率を60%で計算すると、年間の発電量は66万kWh(キロワット時)になる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して180世帯分に相当する。飛島建設とオリエンタルコンサルタンツは固定価格買取制度を通じて全量を中部電力に売電する方針だ。発電能力が200kW未満の小水力発電の場合には買取価格が1kWhあたり34円(税抜き)になる。

 両社は発電所の建設にあたって、地元の中津川市から関係者の調整や許認可の面で支援を受けた(図5)。農業用水路を所有・運営する水路管理組合と生産森林組合からは水路の使用許可を得る一方、清掃や点検などを依頼することで利益を還元する。組合にとっては老朽化した水路を負担ゼロで改修できるメリットも大きい。

図5 小水力発電事業のスキーム。出典:飛島建設、オリエンタルコンサルタンツ

 岐阜県内には起伏の多い山間部が広がっていて、農業用水路を含めて小水力発電に適した場所が数多く分布している。飛島建設とオリエンタルコンサルタンツは第1弾の発電事業を成功させたうえで、中津川市をはじめ県内各地に小水力発電所を展開していく考えだ。

 さらにオリエンタルコンサルタンツは小水力発電事業を皮切りに「地方創生のまちづくり」も推進する。落合地区では宿場の古い町並みを観光資源として生かしながら、電気自動車の導入や森林資源を活用した木質バイオマス事業にも取り組んで地域の活性化を図る計画がある(図6)。

図6 地域の活性化に向けた事業の発展イメージ。出典:オリエンタルコンサルタンツ

*電子ブックレット「小さな農村を小水力発電が潤す Part 2」をダウンロード

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.