農業用水路やダムからの水流を生かして小水力発電が各地に広がってきた。発電が可能な場所は全国各地に2万カ所以上もあり、導入事例は今後さらに増えていく。2014年度以降は既設の水路をそのまま利用した場合でも固定価格買取制度の認定を受けられるようになった。
固定価格買取制度の対象になる再生可能エネルギーのうち、中小水力発電の適用範囲が2014年度から広がったことは意外に知られていない。発電能力の大きさによる3つの区分に加えて、既設の導水路を活用した場合でも同様に3つの区分で認定を受けられるようになった(図1)。買取価格は低くなるものの、発電機などを設置するだけで短期間に低コストで運転を開始できる利点がある。
中小水力発電を実施するためには、電気設備と土木設備が必要になる。電気設備は水車と発電機のほかに、送配電ネットワークに電力を送る変電設備で構成する(図2)。通常は20年程度が寿命で、発電を続けるためには設備の更新が欠かせない。
一方の土木設備は川から水を引き込むための取水口や導水路が中心で、100年くらい使い続けることができる。導水路から流れてくる水はヘッドタンクと呼ぶ水槽に貯めてから、発電専用の水圧鉄管を使って水車に送り込む仕組みになっている。水圧鉄管の寿命は30〜60年が標準的だ。
従来の固定価格買取制度では、電気設備と土木設備の両方を新設・更新する場合だけが認定の対象になっていた。寿命の長い土木設備をそのまま利用して、電気設備だけを導入すれば、建設コストを低く抑えることができる。政府は中小水力発電を促進するために、既設の導水路を活用した発電設備も買取制度の対象に加えて、2014年度から買取価格を設定した。
発電規模が小さい出力200kW(キロワット)未満の場合には、通常の1kWh(キロワット時)あたり34円(税抜き)に対して25円である。電気設備と水圧鉄管の導入コストは全体の5割程度だが、中小水力発電では運転後の維持費が高めになるため、それを考慮した買取価格になっている。
ただし初年度の2015年3月末までに認定を受けた既設導水路活用型の発電設備は全国で11件にとどまった。適用条件が十分に浸透していないことが大きな要因だ。特に農業用水路が関係すると判断がつきにくいことから、政府は改めて認定要件を整理したうえで導入を促していく。
既設の導水路を利用した場合でも、発電専用の設備さえ新設・更新すれば買取制度の認定対象になる。具体的には電気設備と水圧鉄管のほかに、導水路や放水路のうち発電にしか利用しない部分も含む(図3、図4)。農業用に共用する部分は新設・更新しなくてもかまわない。
最近は農業用水路そのものに水車と発電機を導入するケースも増えている。この場合は既設導水路ではなくて通常の中小水力発電の買取価格を適用することができる。中小水力は太陽光や風力などと比べて出力の小さい発電設備が多く、初期投資を回収しにくい難点がある。建設コストが安く済む既設導水路を活用した導入事例が増えることで、普及にはずみがつく期待は大きい。
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