安全で長寿命な「全固体リチウムイオン二次電池」が実現か、MITなどが開発蓄電・発電機器(1/2 ページ)

マサチューセッツ工科大学とサムスングループは、全固体リチウムイオン二次電池を実現する「固体電解質材料」を開発したと発表した。

» 2015年08月21日 07時00分 公開
[三島一孝スマートジャパン]

 スマートフォンやPC、電気自動車など身の回りの機器の多くで、リチウムイオン電池が採用されているが、安全性の問題や製品寿命の問題など、数多くの課題を抱えている。これらによる蓄電池の性能や大きさ、コストなどの制約が、蓄電池を使用する最終製品の製品価値を左右する状況となっており、蓄電池技術の進化が期待されている状態だ。

 蓄電池に進化を促すため、昨今多くの研究機関や企業により研究開発が活発化しているのがリチウムイオン二次電池における「全固体化」の実現である(関連記事)。電池は大きく分けると正極、負極、電解質から構成されている。現在利用を広げているリチウムイオン二次電池では、正極材にリチウム金属酸化物材料、負極に炭素系材料、電解質では有機溶媒を利用するケースが多い。この場合、正極材や負極材は固体だが、電解質は液体やゲル状の物質を採用する。この電解質に固体材料を採用した電池が「全固体リチウムイオン二次電池」となる(図1)。

photo 図1 NEDOによるリチウムイオン電池の電解質の技術マップ。(左)が各種電解質材料の電気伝導率温度依存性、(右)が各種電解質の電位窓。多くの材料の研究が進められている(クリックで拡大)※出典:NEDO

 全固体リチウムイオン二次電池は、一般的に発火や爆発の危険性が小さい点と、高いエネルギー密度を維持できる点、使用劣化による寿命の低下を抑えられる点などが特徴だとされている。一方で固体の電解質ではリチウムイオンの伝導性を確保できず充放電の速度を十分に得られないという課題を抱えていた。

コスト競争力も実現可能

 今回マサチューセッツ工科大学(MIT)とサムスングループが開発したのは、デバイスの寿命と安全性を両立させつつ、蓄積できるエネルギー容量を改善するため、電解質に固体材料を利用したリチウムイオン二次電池である。

 これらの研究は国際学術誌である「Nature Materials」に掲載されたもので、MITの材料科学・工学の教授であるガーブランド・シダー(Gerbrand Ceder)氏の研究室で博士研究員であるヤン・ワン(Yan Wang)氏など5人のメンバーによって開発されたという。

 シダ―氏は「二次電池の火災の多くは液体の電解質材料が原因となってきた。リチウムそのものは可燃性ではないため、固体材料を使用することができれば、高い安全性を実現できる」と強調する。また、開発された固体電解質は、電池寿命、安全性、コストなど「残りの問題のほとんどを解決可能な、完璧なバッテリーを実現し、“ゲームチェンジャー”になり得る」(シダ―氏)という。

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