酵素と微生物で燃料製造、日本の技術がタイで生きる自然エネルギー(1/3 ページ)

タイのエネルギー問題は、輸送用燃料にある。ガソリンの負担が高いのだ。そこで、国産の植物原料からエタノールを生産し、ガソリンに添加するとり組みが進んでいる。タイ政府が掲げる2022年の大目標を実現するために、日本企業のバイオ技術が役立ちそうだ。

» 2015年09月08日 15時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 日本企業の技術が、タイのエネルギー問題を解決するかもしれない。農作物に含まれる不要な繊維質から、ガソリンに添加可能な燃料を低コストで作り出す技術である。

 タイが抱えるエネルギー問題は日本とはかなり異なる。主な問題は「輸送用燃料」だ。最終エネルギー消費に占める運輸部門の割合が、タイでは37%と高い(2011年時点、日本は26%)。タイの自動車保有台数は2012年時点で約1300万台に達している(図1)。

図1 タイ最大のショッピングモールに面した道路を走る自動車

 タイが輸入するエネルギー資源のうち、約6割を原油が占める。輸送部門では輸入に頼る原油をもっぱら利用している。原油の輸入量を抑えるためには、輸送部門の改善がどうしても必要だ*1)

*1) タイは品質の低い亜炭・褐炭資源には恵まれている。そのため、エネルギー自給率は5割強の水準を保っている。再生可能エネルギーの普及目標は高い。一次エネルギーに占める再生可能エネルギーの比率を、2021年までに25%に高める計画だ。

エタノールでガソリンを節減

 タイ政府はガソリンの正味の消費量を減らすために、エタノール(エチルアルコール)をガソリンに添加する政策を進めている。2013年には無添加のガソリンの販売を禁止してしまった。現在、タイ国内ではエタノールを添加した「ガソホール」を利用している。混合比率によって3種類に分かれ、「E10」(10%混合)の他、E20とE85が販売されている。

 タイ政府がエタノールに頼った理由は、国産原料から製造できるため。原料はサトウキビ(図2)と、後ほど紹介するキャッサバ。

図2 サトウキビ畑と収穫したサトウキビ(右下)

 サトウキビの利用方法はこうだ。収穫したサトウキビを絞り、砂糖を含む液体成分を取り出す。この液体を精製すると、砂糖と糖蜜(モラセス)に分かれる。糖蜜は黒いどろどろとした外見であり、廃糖蜜とも呼ばれる。糖蜜はさらに精製して食材としても利用可能ではあるものの、食品廃材としても扱われる部分が多い。

 この糖蜜を発酵させてエタノールを取り出す。タイのサトウキビ生産量は世界第4位。年間1億トン近く生産しているため、原料の調達はたやすい。

 新政策を打ち出した2013年時点で、タイ国内には既に21カ所のエタノール製造工場が稼働している。主な原料は糖蜜とキャッサバ。1日当たりの生産能力は21カ所を合わせて3000kLを超えていた。

 2014年時点では生産能力が1.5倍以上に高まっている。燃料用エタノール生産量は年産100万kL(日産3000kL)に達し、これは世界第5位である。

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