小さくても磁力は強く、新たな超電導磁石の開発に前進蓄電・発電機器(1/2 ページ)

東京農工大学と米国立強磁場研究所の共同グループは、強力な超電導磁石の小型化やポータブル化につながる鉄系高温超電導を応用した強力磁石の開発に成功した。

» 2015年10月02日 09時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 東京農工大学の山本明保特任准教授と米国立強磁場研究所のエリック・ヘルストロム教授、デビッド・ラバレスティエ教授ら共同グループは、このほど鉄系高温超電導を応用した強力磁石の開発に成功したと発表した。強力な超電導磁石の小型化、ポータブル化につながる成果だという。

 超電導とは特定の物質を転移温度(超電導になる温度)以下に冷却することで、電気抵抗がゼロになる現象だ。超電導体を磁石にすれば、磁力が長期間減衰せず、永久磁石のように振る舞う。こうした超電導磁石は、はエネルギー、医療、輸送などのさまざまな分野で利用されている。

 しかし超電導磁石の冷却には、需要増大を背景に数年前から世界的に不足している液体ヘリウムを用いることが多い。装置全体がさらにネオジム磁石をはじめとする強磁性磁石では、貴重なレアアース元素を利用しているためコストも高くなる。こうした課題の解決に向け、転移温度がより高く、冷凍機による冷却が応用可能な高温超電導体の実用化が期待されている。

 今回研究グループが利用した鉄系超電導体とは、2008年に日本で東工大グループが発見した新しい高温超電導体群の1つ。銅酸化物系に次ぐ高い転移温度を持つことから、量子コンピュータ、高効率送電ケーブル、強力磁石など幅広い分野への応用が期待されており、国内外で研究開発が進められているという。一方で、この鉄系超電導体を磁石にする技術は確立されていなかった。

 共同研究グループは鉄系高温超電導体群の中から、レアアース元素を含まず、液体ヘリウムの温度以上で使うことのできる磁石の候補材料として、122系と呼ばれるバリウムカリウム砒(ひ)化鉄という化合物に着目。これを工業的なプロセスで生産しやすい、多結晶からなるバルク(塊)状にして、強力な磁力を発現させることを目的とした(図1)

≪図1 永久磁石、超電導バルク磁石、コイル電磁石のイメージ。今回の研究で扱うのは中央の超電導バルク磁石だ。出典:東京農工大学

出典:東京農工大学≫

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