黄色のLED電球で蛾を寄せ付けない、キクやイチゴの被害を防ぐスマートアグリ

LED照明を農業に利用する取り組みが全国各地で活発だ。シャープと広島県立総合技術研究所は黄色のLED照明を一定の周波数で点滅させる技術を開発して、夜行性の蛾からキクやイチゴを守る効果を実証した。消費電力は同色の蛍光灯と比べて13分の1で済む。シャープが2016年の春に発売する。

» 2015年10月15日 07時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 シャープと広島県立総合技術研究所は9年前の2006年度から、農薬を使わずに夜間照明を利用して蛾(が)を防除する技術の開発に取り組んできた。新たに開発した黄色のLED照明を点滅させる方法により、露地栽培のキクに対して夜行性の蛾を寄せ付けない効果が高いことを実証した(図1)。現時点でLED照明の仕様は公表していないが、シャープが製品化して2016年の春に発売する予定だ。

図1 電球型LED防蛾ランプ(左)、露地キク栽培場の実証実験。出典:シャープ、広島県立総合技術研究所

 夜行性の蛾は花や果樹・野菜などの農作物に産卵する性質があり、産まれた幼虫が農作物を食い荒らして被害をもたらす。成虫の飛来を防ぐ必要があるが、夜間の農薬散布はむずかしく、幼虫は花や芽の隙間に入り込むため防除しにくい。照明を点灯すると蛾の活動を抑制できるが、同時に光に敏感な農作物の開花を遅らせてしまう問題がある。

 そこでLED照明の応答性を生かして点滅を繰り返す方法をとったところ、農作物の開花に悪影響を及ぼさずに、蛾を寄せ付けない効果を発揮することが明らかになった。一方で蛾は光に寄せ付けられる性質も併せ持つが、そうした誘因力が最も低い黄色の光を発するLED照明を採用して抑制効果を高めた。

 広島県立総合技術研究所によると、夏の2カ月半の実証実験の結果、黄色のLED照明を点滅(1秒間に2回)させると被害を受けるキクが4分の1以下に減少した(図2)。被害を抑制する効果は85%以上になる。従来型の黄色の蛍光灯(40ワット)を連続で点灯した場合にはキクは開花しなかった。2つの照明の消費電力を比較すると、栽培面積100平方メートルあたりでLED照明のほうが13分の1で済む。

図2 照明がキクの生育に及ぼす影響(左)と効果(右)。出典:広島県立総合技術研究所

 植物には1日の日照時間が一定以下になると開花する「短日植物」や一定以上で開花する「長日植物」、影響を受けない「中性植物」がある。キクやイチゴは短日植物で、ホウレンソウやダイコンなどは長日植物に属する。黄色のLED照明を点滅させると、いずれのタイプの植物にも悪影響を及ぼさないことが実証できた。

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