プラスチックの太陽電池、効率改善に役立つ不思議な挙動蓄電・発電機器(2/3 ページ)

» 2015年12月04日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

エネルギー差がないのに電子が移動する

 図3に有機薄膜太陽電池(OPV)のエネルギー状態の変化と、電力が生まれる仕組みを示した。

図3 有機半導体高分子のエネルギー状態と電力変換メカニズム 出典:JST、理化学研究所、京都大学(図の一部を編集)

 図左は一般的な有機薄膜太陽電池の動作。(1)で太陽光を受けて分子が励起状態に変わる。このエネルギーをそのまま取り出すことができれば、高い電圧を得ることが可能だ。しかし(2)のように、いったん駆動力としてエネルギーを失なって電荷移動状態にならないと、電流が流れない。これ以外の要因もあるため、損失の合計(光エネルギー損失)は0.7〜1.0電子ボルトにも及ぶ。

 図右は、開発したPNOz4T分子が太陽光を受けたときの状態変化だ。一般的な有機半導体分子とは異なり、駆動力によるエネルギー損失がほとんどない。そのため、光エネルギーの損失を無機系の半導体に近い0.5電子ボルトに抑えることができた。

 「今回の研究で面白いのは、なぜ駆動力がゼロになるのかが分からないことだ。伝導帯のエネルギー準位に段差がないのに、PNOz4Tからフラーレンへ電子が移動してしまう。駆動力を少なくする設計指針に従って分子を設計したところ、ゼロになってしまった(図4)。今後はゼロになるメカニズムを解明し、これを他の分子に適用していくことで、高い変換効率を実現できると考えている」(同氏)。

図4 従来のPNTz4T(左)と開発したPNOz4T(右)の分子構造 出典:理化学研究所
「PNTz4TとPNOz4Tでは、青色と赤色で示した位置の原子が異なっている。青色は硫黄(S)、赤色は酸素(O)だ。かっこにある「n」は、図の分子構造の繰り返し数を表しており、どちらもnは45〜50である」(尾坂氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.