全国の自治体の中で電力の小売事業に初めて取り組んだのは群馬県の中之条町である。人口1万7000人の町が2013年8月に「中之条電力」を設立して大きな話題を呼んだ。その2年前に発生した福島第一原子力発電所の事故を契機に、電力の地産地消を推進する「再生可能エネルギーのまち中之条」を宣言してプロジェクトを開始した。
中之条電力は再生可能エネルギーを中心に電力の小売を手がけるV-Powerと共同で事業を展開する。特に太陽光発電の開発と調達に力を入れている(図5)。町内の3カ所で運転中のメガソーラーから電力を購入して、町役場などの公共施設に電力を供給している。
太陽光発電による電力の小売事業は大阪府の泉佐野市も開始した。近隣の太陽光発電所から年間に450世帯分の電力を調達して市内の公共施設に供給する(図6)。民間の新電力と共同で設立した「泉佐野電力」は、自治体が出資する事業者では初めて小売電気事業者の登録も済ませた。4月から家庭向けにも電力の販売が可能になる。
2015年12月末の時点で、自治体が出資する小売電気事業者は2社ある。泉佐野電力のほかに、岡山県の真庭市が出資する「真庭バイオエネルギー」だ。山林で大量に発生する林地残材や製材所から出る端材を有効に活用するために設立した(図7)。市内の事業所などに木質バイオマスボイラー用の燃料を供給している。
真庭市では2015年4月に「真庭バイオマス発電所」が運転を開始した。発電能力が10MW(メガワット)に達する大規模な木質バイオマス発電所で、年間に2万2000世帯分の電力を供給することができる。真庭市と真庭バイオエネルギーのほかに地元の森林組合や製材会社が共同で発電事業を運営する。
真庭バイオエネルギーが小売電気事業者に登録したことで、木質バイオマスによる電力を家庭にも販売できる体制になった。真庭市は「バイオマス産業杜市(とし)構想」を掲げて、林業と製材業を中核に新しいバイオマス産業の育成に取り組んでいく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.